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映画日記その299 「ワース 命の値段」

「命の値段をどのようにして算出するか」
9.11 アメリカ同時多発テロの被害者と遺族に、補償金を分配すべく奔走する弁護士たちを描いた、実話に基づくヒューマンドラマ。

9.11はわれわれ世代にとって忘れられない衝撃的なできごとだった。2001年、夏の暑さがまだ残る9月11日早朝、ふとテレビをつけると、画面から信じられない光景が目に飛びこんできた。2機の旅客機がビルに突っ込むのだ。各テレビ局はその映像を一日中何度も繰りかえし放送し、ボクはニュースに釘づけになったのを覚えている。

本作のオープニングは、その時の実際の映像を交えて始まる。やはり実際の映像は、忘れかけていた当時の記憶を思いおこさせるには十分で、ボクの心はいささか苦しく高鳴るのだった。そして場面は遺族への補償金問題へとうつり、弁護士のケン・ファインバーグ(マイケル・キートン)が被害者補償基金プロジェクトのリーダーを任される。

対象者が7,000人いれば、7,000とおりの事情がある。ケンは、犠牲者の収入などから算出する独自の計算式とルールを定める。そこに私情ははさまず特例は認めないと考えるのは、しごく当然のことだ。事情によって特例を認めてしまうと、不公平がしょうじて収拾がつかなくなるからだ。

ところが、いざ始めると遺族から猛反発を受ける。お金持ちも貧困者も同じひとつの命で、差がつくのはおかしいという。また計算式に当てはめて金額を決めるだけの対応は、遺族からしたら国は犠牲者に歩みよることなく、冷たく機械的に処理していくように感じ、違和感を覚えるのだ。つまりケンの数式による論理的思考と、遺族の感情論が対立するのだ。

そしてついに、遺族の代表であるチャールズ・ウルフ(スタンリー・トゥッチ)は、ケンの計算式を糾弾し、真っ向からケンと対立する。じつは本作の見どころはここからだ。私情をはさまず論理的思考で、遺族やプロジェクトチームに分断を引き起こしてしまったケンは、自分の間違いを認め、敵対するチャールズにアドバイスを求めるのだ。

誰しもが自分は正しいと思うことがある。とりわけリーダーというのは、自分は正しいと信じて取り組まないことには人はついてこない。しかし時として人は過ちを犯すもの。自分の考えが間違っていたことに気づいたとき、はたしてリーダーとして、間違いを認めて軌道修正できるかどうか。また敵対していた人と議論をしたり、意見やアドバイスを乞うことができるかどうか。

間違いを認める。人を認める。本作はこれら「認める」ということが、リーダーにとっていかに大事な資質であるかを教えてくれる。今現在、リーダー的な立場にある人は、本作は必見の映画かもしれない。

ご興味ある方は、ぜひ劇場でご覧ください。

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