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見えていなかった美しさを形に~作家の全体性とは。


人の全体性ってなんでしょうね。
端的に自分のことを説明しなければならない気がして、自己紹介が苦手なのですが、そういうことありませんか?
その時本当に求められているのは、単純化された言葉ではなくその人全体を煮つめて作った結晶なのかもしれません。

そして作家が手掛ける作品はその結晶そのものではないか。藤井友梨香さんにお話を伺い感じました。


【プロフィール】 藤井 友梨香 さん
高校の進学時に美術大学のガラスコースを選択。卒業後、神奈川・富山のガラス工房への勤務や海外留学を経て2015年に独立。現在は個展を中心に作品を発表している。吹きガラスへの、七宝焼の技法(ガラス胎有線七宝)と、エナメル絵付けによる装飾を組み合わせた作品が特徴。
2020年9月5日~13日、個展「「耀う森(かがようもり)」開催。


「内側からの衝動で」

ー今は作品に何を描かれているんですか?
自分の心が動いたものを素直に描いていこうと思っています。今年の春は自粛期間だったので家の周りを散歩していたんですけど、山野草がすごく綺麗で。うちの裏にある森に行って、今まで見つけられていなかった山野草とかに感動して、それを描きたいという内側からの衝動で植物を描いています。今は植物が多いけれど、これから先色んな所を旅できるようになったら、旅先で出会ったものになるかもしれないです。


吹きガラスへ有線七宝の装飾が出来る様になった。その後、藤井さんは技術への傾倒を超え、いまここの心の動きを記録するような作品つくりをされているようにみえます。そこにたどり着くまでを、ガラスとの出会いに遡り、伺います。


「あ、そっか。美大という選択肢もあるのかも」

ー高校生の時からガラス作家を目指していたんですか?
最初は普通の大学に行こうかなと思っていたんです。進路を考えていた時、図書室でガラスでできた万華鏡の写真を見つけて、すっごく綺麗だなと感じたんです。「ガラス大好き!」と思って。そしたら自分の好きをどんどん思い出してきて絵がずっと好きだったんです。絵を描くのも見るのも。それで、「あ、そっか。美大に行く選択肢もあるかも」と思ったんです。

ー将来進む分野を決めるの、怖くはなかったですか?
私は逆に会社で働く方が怖かったです。好きに向き合っていないと精神的におかしくなってしまう予感があって、ちゃんと手に職をつけておこうと強く思ったんです。

「本当に魔法みたい」と思って。

ーガラスの魅力を教えてもらえますか?
それは素材の美しさです。溶けているガラスってオレンジ色の炎みたいな色で光っているんですよね。1400度くらいの熱で溶かしているんですけど、本当にすごいんです。パワーがあって。それはもう綺麗で、「本当に魔法みたい」と、すごく感動したんです。
女子美術大学では学校が工場の一部を借りていたので、現場の職人さんからガラスを学びました。そこの授業でやった、吹きガラスがすごく難しくて。でも、その難しさにハマってしまって絶対扱えるようになりたい。と、思ったんです。

「一目でその人の作品だとわかる個性を」

ー大学を卒業してから工房に勤められますね
神奈川での工房勤務の後、ガラス工芸を市の伝統工芸にしていている富山市の工房に3年間勤めました。市のバックアップがある施設で、設備も整っていて。吹きガラスがしたくてしたくて堪らなかったので、天国のような工房でした。サイズをミリ単位できっちり合わせて、ひたすら大量注文のモノを作るのは精神的に鍛えられたし、工芸として絶対に必要な技術は確かに磨かれたと思います。そんな地域だから、ガラス作家がすごく多くて。素敵な作家さんも多かったので、このままじゃやばいと思っていました。自分の武器じゃないんですけど、一目でその人の作品だとわかる個性がないとガラス作家として生き残れないと、20代の時は悩んでいました。

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「本当にとりつかれたように」

ー装飾に七宝を取り入れられたきっかけは何でしたか?
七宝には、「七宝ー色と細密の世界 」(LIXIL出版)で出会いました。明治は万国博覧会などを目指し技術を注ぎ込んだ作品が作られた時代で、その頃の七宝作品が収められた本です。七宝の表面がガラス質に見えたこともあり、夢中でページをめくりました。本来、七宝焼は「銅の生地」に銀線などで模様に釉薬を差すのが一般的な技法ですが、「ガラスの生地」でもできるんじゃないかと思って、そこから実験を始めたんです。

ー試行錯誤を重ねられたんですね
3年くらいかかりました。ガラスの器が完成した後、釉薬を差すために薄い銀の枠を焼き付けるんですが、温度差でガラスにヒビが入ってしまったりします。ガラスに対して金属の銀が不純物になってしまうんですよね。釉薬を差してからも、化学反応で釉薬の色がおかしな色になったりもしてしまって。自分の思ったような表情を生み出せるまで毎日ひたすら実験をしていました。
ちょっとでもよくなってくると、「こっちの道でできるかもしれない」とか、「この状態なら焼き付くかも」とか。本当にとりつかれたように、どうやったら出来るかばかり考えていました。

ー吹きガラスの技術に、七宝の技術を積み重ねられたんですね。
その3年間はどんな気持ちでしたか?

どんな気持ちだったんだろう。ちょっとあんまり思いだせないんですけど、ひたすらやっていましたね。有線七宝を施した作品ができる様になるまでは、吹きガラスの器を頑張っていました。上手くいかなくてつらいと言うよりも必死でした。ただ、難しかったけれど有線七宝に出会えて嬉しかったし、これからの人生で自分のなかで技法を育てていくという気持ちでした。

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集中するために周りの余計な情報を入らないようにしていた

ー技術が確立してからの気づきはありましたか
2018年に吹きガラスへの有線七宝装飾が出来る様になって嬉しくなり、翌年は「展示をするぞ!」と、春、夏、秋、冬と、季節ごとに個展を開きました。予定を組んでいったら、ガラス以外のことが何も出来ないみたいな状況になってしまって。だんだん眠れなくなってしまうし、頭が冴えてずっと締め切りに追われているような感覚でした。「個展まであと何日だっけ」とか、「まだできていない」とか。焦る気持ちが強くて、全然楽しめていない感じです。やりたかった個展が出来るようになってきたのに、もう精神のバランスを崩してしまって。やりかったことではあるし、頑張るんだけど、こういう風には続けられないなと思いました。

それまでは、静かに集中するために周りの余計な情報を入らないようにしようと、家にWi-Fiも置いて無かったし、SNSもほとんどやっていなくて、人にすらほとんど会わない自粛生活に似た生活でした。写真を撮るのも、植物を育てるのも好きだったのに、そんな暇があったらガラス作らなきゃって。ガラスに時間を捧げていないと。と、ずっと思っていました。何かを吸収しなければという気持ちだけになっていたんですよね。効率がよかったのかどうかは分からないけれど、豊かさの反対だったのかもしれないと、今は思います。

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「楽しんで撮っているのが伝わって」

ー行動を変えるきっかけはあったんですか?
2019年の10月の個展が終わってすぐ、旅行でウズベキスタンに行ったんです。帰ってから感動をnoteに書いておこうと思ったんですが、すごく難しくて。みんなは旅行記をどう書いているんだろうとウズベキスタンのハッシュタグを検索して、古性のちさんの記事に出会ったんです。読んでみて、私はなんでちゃんと写真撮らなかったんだろうと思ったんです。モスクの前で女の子がスカートを翻している写真から、空間の綺麗さもそうなんですけど、楽しんで撮っているのが伝わってきたんです。人が表現するものって、そういう喜びとか、健康的な気持ちから生まれているものの方がいいなと思って。今、そういう風に全然できていないなと気がついたんです。

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「自分の心が動いたものを素直に」

ー豊かさを大切にしようと思われてから、何を始めましたか?
まず、写真をもう少しやろうと思っています。自分の内側からの欲求に寄り添ったカタチで。「撮りたい」もそうなんですけど、書きたいことがあったら書くとか、自分なりの欲求や感覚に素直になろうと思っています。
今までは自分が見たいものしか見ていなかったし、出会える物も限られていたんですが、駅まで行くのも気持ちよさそうな道を選べるようになりました。そうすると、今までに見つけていなかった植物に出会えるとか、普段の生活だけでも出会えるものが全然違っています。

ー生活の変化が作品に返ってくる感覚はありますか?
作品が全然違うと思います。やっぱり描いていて楽しいし、身体が喜んでいるとすごい出てくるんですよね。吹きガラスは身体を使って作るものなので、気持ちいい状態で吹くと出来た物のカタチの伸びやかさが違うんです。作ることそのものよりも、自分の体がいい状態で在ることの方が大事かもしれないと、最近は思います。

ーそういう心境変化があってから、作品の発表はありましたか?
まだしていないです。今年は9月の個展だけにしているので、今制作をしています。去年とは全然違うものになるだろうなと思っています。

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藤井友梨香さんは、高村光太郎を生きている。

この記事を考えていた時、ラジオで高村光太郎についての話を聞きました。彫刻家でありながらも詩をなぜ書くのかという話でした。なんとなく、藤井さんの創作活動に近しいものが流れている気がして、原典を探しました。

「彫刻の範囲を逸した自身の欲望を殺してしまうことは出来ない。彫刻に余計な物が混じらぬよう、彫刻を文学から独立せしめるために、詩を書いている。余技などというものではない。」 (原文:自分と詩との関係
これは、先輩に「そういう余技にとられる時間と精力とがあるなら、それだけ彫刻にいそしんで、早く彫刻の第一流になれ」と、忠告を受けながらも詩を書き続けた、高村光太郎の言葉です。

「展示会、ただいま開催中です」

藤井 友梨香 展 「耀う森(かがようもり)」2020.9.5 sat. - 9.13 sun. 
http://savoir-vivre.co.jp/artist/yurika_fujii.html
http://savoir-vivre.co.jp/exhibition/8588.html


この記事は、オンラインコミュニティ #旅と写真と文章と 。2020springの企画「インタビュー記事を書こう」の参加記事です。
8名が参加しています。共通のハッシュタグ「  #ガラスのことば  」をつけているので、他の作品も是非ご覧下さい。

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取材 伊佐知美
写真 伊佐知美・安永明日香
編集 伊佐知美・雨辻ハル
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