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白昼夢


一見さんにも平等にジョークかましてくれる
おもしろマスター。

先客の女子たちに「お会計1000万円です」と
にこやかに言い放つのを目の当たりにし、
私もあれが来るのかとドキドキしながら味噌汁を
飲み干していたら、カウンターの向こうから
「今日は側溝の工事の様子を見にいらしたんですか」と不意打ちの先制攻撃をかまされる。

たしかにさっきまで店の前では工事が行われていたが、私は唐揚げを楽しみに来たのであり工事の
現場監督をしに来たんじゃないんですよと喉元まで出掛かるが口は喋らない。
光速で頭をフル回転させた挙げ句、ポロリと落ちて声になる。

“はぁ、お店に入れないかと思いました”

センスの壊滅。

食べ終わり、最高に消え入りたい気持ちで財布を
取り出すとさっきから何度もシミュレーションしていたあの一言がついに自分にも降りかかる。
さぁ何を喋るのか。口に期待が100%のしかかる。
恐る恐る1000円札を手渡す両手に自信はない。

“こ、これでよろしいでしょうか”

何もかもが絶望。

気まずさをごまかすために、イヤ~おいしかったです(めちゃくちゃ本心)と言うものの、
自分は生まれながらにしてさっきの女子たちみたいにおもしろーいウケる〜と言えるフッ軽さもないし、座布団だって山田くんから一生貰えないのだ。

身の程を知った。

そのあと、食べたはずの唐揚げ定食の写真を
チェックすると、無い。どこにも無い。
見つかったのは最初の白湯の写真だけ。

あの昼は幻だったんだろうか。
あるいは、唐揚げの記憶もしどろもどろの言葉も
今頃全部側溝に埋まっているのかも。

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