「まずは生成り天竺の小さな編地とにらめっこです。」Tシャツデザインの最初の最初。
そういえば、洋服のデザイナーさんたちは新商品の企画を始めるとき何から手をつけるのだろうか?
糸屋としての仕事で服飾デザイナーさんと沢山お付き合いさせていただいてますが、よく考えると皆さんがどうやって商品企画を進めているのか、詳しく伺ったことがありません。
素材から決めるの?形から決まるの?コンセプトから?もしかして価格?
洋服をデザインするにあたってデザイナーさんが最初に決めることってなんですか?
「東大阪繊維研究所」はTシャツブランドなので、デザインのベースはある程度決まっています。
それでも、
袖は半袖?長袖?7分丈?、襟はクルーネック?Vネック?ヘンリーネック?、生地は無地?ボーダー?、カラーは?、素材は?
という具合に、Tシャツとひとことで言ってもバリエーションは豊富で、色んなことを一つ一つ決めなければいけません。
では私はといいますと、
Tシャツの新商品を企画する場合、まずは1枚の小さな生地を作るところから始めます。
もっというと、その小さな生地を作るためのごく少量の糸を作るところから始めます。
最近作り始めたのはエジプト超長綿のボイル(超強撚)糸。
先日、仲良くしている生地メーカーさんがずっと残していたデッドストックのコットン強撚糸を数百キロほど安く譲り受けました。
糸を受け取ってみたところ、これがとんでもなく良い糸だったので「ぜひTシャツにしてみたい!」と思い早速撚糸の試作に取り掛かった次第です。
以前の投稿
「分かった!もういい、もういいって!」って言われるくらい自社のTシャツを説明してみる。-1- 素材編
でも書いたように、綿番手80番手よりも細い糸は間違いなく超長綿で作られています。
(超長綿とはなんぞや?ということも以前の投稿
「超長綿を使用しています」、あぁ、そうなんですね。けど、、、ちょっと生地がうす、、、。
に書いておりますので、ご興味があればぜひ読んでみてください。)
そこからすると今回の糸は綿番手110番。(綿番手は数字が大きいほど糸が細くなります。)
ここまでの極細糸を紡績しようとすると、超長綿の中でもさらに質の高いものが必要になります。
つまり、この時点ですでにこの糸の原料の良さがはっきりしているのです。
その糸を2本撚合わせてボイル糸という超強撚糸にした状態のものを今回購入しました。
そのボイル糸を当社の撚糸機を使ってさらにアレンジしているという訳です。
ボイル糸というのは左撚りに紡績された糸を2本撚り合わせる際、再び左撚りに撚糸することで非常に強い撚りが入った状態にした糸のことを言います。
撚りが強く入っているので肌触りはシャリシャリでドライな風合いになります。
原料がとても柔らかい超長綿なので、強撚によってシャリシャリの肌ざわりになるはずのところが、適度に柔らかくてサラサラという絶妙なバランスを保った、美味しいとこ取りな糸になっています。
この糸をそのまま編めば、薄手で柔らかくてサラサラの夏場のインナーなんかに最適な生地が出来ます。
けれども、強撚糸をそのまま編んだ生地は非常に歪みやすいです。
「東大阪繊維研究所」で重要視しているのは肌ざわりだけじゃない。
型崩れしないように生地を安定させて、丈夫さと着心地を良くする必要がある。
そのために、このボイル糸にひと手間加えます。
ボイル糸は左に撚られた糸を2本束ね、再び左に撚り合わせて作ります。
これはすなわち、この糸が右に撚り戻ろうとする強い反発力を持った状態だということを意味しています。
この反発力をゼロにしてあげないと、出来上がったTシャツが歪んで型崩れしてしまい、最悪の着心地になってしまいます。
ではどうするか。
この糸を数本束ねて右撚りに撚糸してあげればよいのです。
この時に左撚りの力と右撚りの力がピッタリ均衡するように撚りを加えてやることで糸は安定し、結果的に出来上がったTシャツが安定します。
糸が撚り戻ろうとする反発力のことをトルクといいます。
このトルクをゼロにしてあげることでTシャツが型崩れしなくなるというわけです。
「東大阪繊維研究所」のTシャツはすべてこのゼロトルク糸で作られています。
上のイラストではボイル糸をさらに2本撚り合わせた図を書いていますが、今回はボイル糸を4本束ねてゼロトルクにした糸を作って生地を試作しました。
それがこちら。
まだまだ試作段階なので、この写真だけを見ても良し悪しが全く分かりませんよね。
けれど、この小さな編地を触りながら色々と想像していくのです。
手触りは柔らかくてサラサラ。
適度に肉厚でしっかりしている。
試験段階では目の粗い編地を作成していますが、実際編む生地はもっと目の詰まったものなのでそれも想定しながら出来上がりのTシャツをイメージしていく。
昨日と今日では生地を触った感覚も違っているので、とりあえず数日間は毎日おりにふれて生地を眺めて触ってを繰り返す。
そうしているうちに作りたいものが浮かんでくるので、そこから少しずつデザインを固めていく。
こんな感じで、私はTシャツの企画をスタートします。
以前は作りたいものを先にイメージして、そのための糸を作るというやり方をしていました。
今とは逆ですね。
またそのやり方に戻るかもしれません。
どちらが正解というわけでもなく、そのときの気分や状況に合わせて自然にやり方が決まる感じです。
さて、世のデザイナーさんたちはどんなやり方をしているのでしょうか。
興味があります。