「分かった!もういい、もういいって!」って言われるくらい自社のTシャツを説明してみる。-1- 素材編
マニアックな繊維の知識をいっぱい書きたい!!
と思って始めたNOTEなので、今回から何回かに分けて自社の製品をこれでもかというくらい細かく説明してみたいと思います。
先月から発売開始した新商品「HOFI-008 インド超長綿天竺 タック襟丸首Tシャツ」について。
前回と前々回の投稿で世に出回っている超長綿の製品は玉石混交だ!とさんざん書いといて超長綿の商品をご紹介するからには、当社の超長綿はちゃんとしたものなのです。
なぜそこまで自信を持って言えるのか?根拠は簡単、実は糸屋さんには糸の原料が超長綿かどうか見分ける手っ取り早い方法があります。
早い話が番手を見ればいいんです
前々回の記事で書いたとおり、超長綿でなければ極細の糸を作れません。
すなわち極細の糸はすべからく超長綿で作られているということです。
糸の太さを表す番手という単位でいうと綿番手80番以上ならその糸はほぼ超長綿で構成されています。超長綿じゃないとこの番手は紡績できません。つまり製品に「超長綿」という謳い文句をつけて売りたいのであれば、綿番手80番よりも細い糸で生地を作ればいいのです。
70番でも間違いなく原料の大部分が超長綿です。理由は80番と同じです。若干違うのは70番手の場合長綿が少し混ざっていても紡績可能です。けれどもこの番手でも大部分を超長綿にしておかないと紡績できません。
60~50番あたりになると長綿だけでも紡績可能になるので、ここから下の番手にはボチボチ色んなワタが混ざってきます。超長綿で作られた50番手もあれば長綿の50番手もあるので、ここから下の番手の品質を見定めるには本職としての目利きが必要になってきます。
40~30番クラスは群雄割拠、長い短い太い細い様々なキャラクターの原料が登場してきます。超長綿で紡績された40番手もあれば、リサイクルコットンを半分以上含んだ30番手なんかもあります。
20番以下になるとかなり品質の低いワタでも紡績可能なので、もはや何でもありです。落ちワタといわれるリサイクルコットンを90%以上ブレンドしたものやら、布団に詰めるワタやらいろんなものが原料として使えます。
では今回の当社のTシャツはといいますと、番手は72番なので上記の見分け方でいうと間違いなく大部分に超長綿が使われているラインです。
72番手を使用している時点で超長綿であるということがほぼ保証されているというわけですね。
なので今回の商品には「超長綿」と記載しました。
さて、
ただ超長綿を使えば良い糸を作れるという単純な話ではありません。
私たちは番手うんぬんではなく糸そのものを見て良し悪しを見定めます。染色や編みたての試験を繰り返した上でこれなら間違いなく一級品であると判断したので今回の糸を選びました。
そしてそこに最適な加工を加えて更に品質を上げています。
72番手の糸をそのまま編むと薄っぺらい生地になってしまうので、今回のTシャツではそれを2本撚り合わせた後さらにそれを3本撚り合わせて、合計6本撚りにして使用しています。
これはコード撚りとか多本撚りとかいう撚糸方法で、詳しい話は次回「撚糸編」というテーマでご説明したいと思います。
72番を6本撚り合わせると計算上12番手になります(これまた後日「番手」をテーマに書きたいと思います)が、構造上2本撚ったものを3本合わせてとするうちに糸は計算よりも太くなるので、実際の番手は11番くらいだと思います。
一般的にヘヴィオンスといわれるTシャツの生地には綿番手10番前後の糸が使わているので、今回の当社のTシャツも生地の厚みという点ではヘヴィオンスのくくりに入ります。
今回新作を作るにあたって当初考えたテーマは「上質なコットンの風合いを贅沢に味わえるTシャツ」だったので最初から生地は厚手でしっかりしたものを作ると決めていました。
厚手にはするけれども一般的なヘヴィオンスTシャツのように太い番手の糸で作ると生地は硬くなって肌ざわりがよくない。
生地はしっかりしているのに肌ざわりは柔らかくて滑らかなものにする、とうことで色々と試作を繰り返した結果、超長綿ベースの細番手糸を多本撚りするという方法に行き着いたということです。
先に書いたように、太い番手になるほど原料の素性が多様化するため、同じ生地を繰り返し作る前提で考えると製造ロットごとに品質のバラつきが出やすいというリスクが出てきます。
その点からも、限られた原料でしか紡績できない細番手の糸をベースに組み立てる方が品質も安定するので安心です。
そしてもう一つ、均一性の高い糸にするとナチュラルな光沢が得られるというメリットがあります。
光沢というものの基本的な原理は光の反射です。
平らな面は光を一定方向に反射させるので光って見えますが、ザラザラの面は光を様々な方向に乱反射させるので光りません。
このあたりの知識についてはコニカミノルタさんのサイトで分かりやすく説明されていますので良ければご参照ください。
https://www.konicaminolta.jp/instruments/knowledge/color/section4/02.html
光沢の原理は繊維でもガラスでも金属でも何でも同じことです。
キッチンのシンクや窓ガラスなどでも表面をつるつるに磨いておけば艶と光沢が出ますが、梨地仕上げのステンレスやすりガラスなどはくもって見えます。
表面がザラついていると光を一定方向に反射しないというのはニットの生地でも同じで、表面の凹凸が多いと光沢は出ません。
今回当社では肌ざわりをよくするために糸の均一性を重要視して細番手の多本撚りに行き着きましたが、結果的に生地に自然な光沢が出るという副次的なメリットも得られました。
光沢を出すということについて企画段階では全く考えていませんでしたが、結果的に贅沢を味わってもらいたいという思いにピッタリのいい素材が出来たかなと思っています。
さて、
まずは素材編ということで、新作Tシャツに使用している原材料について色々と書きました。
これを無印良品のタグみたいに要点をまとめますと、
超長綿を多本撚りした糸で作った
柔らかな肌ざわりで光沢のあるTシャツです
ということになりますね。
普通ならこの2行の説明だけでいいのかなと思いますが、私のNOTEではまだまだ掘り下げます。
次回は糸の撚糸編です。
東大阪繊維研究所 オンラインストア
https://hofi.shop/