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#花譜不可解(再) 感想

花譜に対して、はじめてその歌を聴き、その姿を見た私の印象は「正体のわからないもの」だった。

赤色と黄色の瞳、幼さを感じる姿には不釣り合いな大きさの衣装、そこに付き従う魚のような生き物、そしてその感情を震わせるような歌声。私にとって花譜というアーティストは素晴らしい歌手ではなく、初めて観測した時には「正体不明の存在」と映っていた。
だからこそ、去年の春、クラウドファンディングが始まった際にはそれまでに素晴らしい歌声を聴くたびに心を震わされていたものの、結局その「正体不明の存在」への「共犯者」にはなれなかった。その事は7月に観測した「不可解」が終わった後にはひどく後悔したし、今「不可解(再)」を観た後、その一歩を踏み出せなかった後悔はさらに大きなものとなっている。

去年の夏に開催された「不可解」。それまでに公開されていたオリジナル楽曲の数々、そしてライブで発表された新曲の数々を映画館のライブビューイングで花譜の歌と美しい映像演出で圧倒され、そしてその雛鳥の秘めた可能性にとうとう魅せられてしまった。その時、私にとって花譜はようやく「魅力的なアーティスト」となった

それから今日まで。花譜の素晴らしい曲に日々驚かされるつつも、例えばTwitterでの日々を綴る呟き、神椿に所属するアーティストとのコミュニケーション、例えば歌の合間に投稿されていく「わたしのこと」での年相応の口ぶりを聞いていつの間にか花譜は「魅力的なアーティスト」としての姿からいつの間にか「どこかにいる一人の女の子」という印象へと色濃く移り変わっていった。

そして「不可解(再)」をみて。
花譜への印象はいよいよ言葉へ変換できない、それこそ「不可解」な存在になっていった。どこか幼さを感じさせた花譜はそこに居らず、どこか花譜と同じく神椿STUDIOのアーティストである理芽を想起させるような大人の雰囲気を感じさせる雰囲気と魔女を想起させるような青いケープを新しく身に纏った彼女への印象。それは今までに投稿されてきた花譜だけの歌や花譜がすきな歌、それらを聴きながら日々、その感情を聴きながら積み重なってきたものが、今回のライブで「再構築」されたものかもしれない。

その夜、暗いライブステージを青い光に照らされオーケストラが響くその開演前の雰囲気は、ライブ前というよりも何かの儀式の始まりを予感させるような雰囲気に満ちていた。

今回の「不可解(再)」について花譜はその前日に投稿された動画「不可解再前夜」にて「前回とはちょっと違った不可解」と話していた。そして「深化」のポエトリーリーディングから始まったその舞台は既に雛鳥から青雀に花譜が成長を遂げたように前回の不可解から新しいものへ再構築された舞台が始まる事を予感して、それは鋭くアレンジされた「糸」のイントロから確信に変わっていた。

序盤から突き刺さるような激しいバンドアレンジに驚かされた「糸」「心臓と絡繰」、「エリカ」「夜が降り止む前に」のようにシティポップの美しい楽曲。「未確認観測少女」のように可愛らしいダンスミュージック。

その一つ一つのアレンジに序盤はとにかく驚かされていた覚えがある。それぞれの曲がリミックスされて新しい魅力を持っただけでなく、その楽曲一つ一つに新しい花譜がいるようだった。

しかし、MCでの花譜の姿はやっぱり年相応の「どこかにいる女の子」だった。たどたどしく、しかし本当に歌が大好きなんだなぁと伝わってくる楽し気なMCが可愛らしかった。それは「わたしがすきなうたをうたうよ」と語り歌われたカバー楽曲である「綺麗」や「愛の才能」を歌った後のMCではより強く感じた。

そこから歌われた「祭壇」「魔女」は花譜の世界を形作るという意味では特に大きなものだろう。魂の所在について語られた2曲は不可解で披露された際にも特に大きな話題になっていた記憶があるが、今回再構築された世界でも「祭壇」をバーチャルとリアルの間で歌う花譜と「魔女」で登場した春猿火とのデュエットでより、この2曲は不可解を形作る上でより大きなものになっていた印象がある。

それから後半の畳み掛けるような激しいバンドアレンジで歌われた「夜行バスにて」「過去を喰らう」。後半での力強いロックナンバーの畳み掛けは前回にも特に印象強く残るパートだったものの、再構築された今回は、その直前に歌われたのが大人びた雰囲気にリミックスされた「quiz」だった事もあり、より成長した花譜の力強い歌声と激しいバンドアレンジが更に強く印象に残るものなった。それはバンドメンバーの紹介を挟みつつ流れるように繋げた「Re:HEROINES」が入る事で、より大きな感情となっていたように思う。

激しい勢いを冷ますかのような暗転から暫しの時間を置いて幕間の「御伽噺」。さっきまで歌っていた花譜と今目の前にいる花譜。どちらも同じ人物のはずなのにこうも印象が変わるのか、と映像を観ているだけなのに震え上がるようだった。
MCでたどたどしくも自分の好きな歌を語っていた彼女とも、様々な曲を歌いこなす彼女とも違うような、まるで別人のように立ち振る舞い語る様を、歌手としてではなく女優としての花譜の姿をそこに見た。

幕間の動揺も冷めないまま「神様」「命に嫌われている」。特に「命に嫌われている」はsameyuzameさんのキーボードの生演奏もあり、とにかくその世界に呑まれてしまった。初披露された際にも思わず感情を揺れ動かれてしまったが、それ以上のものを見てしまったと思った。セピアカラーの風景が映し出される映像とそこに溶け込むかのような花譜の姿をみて思わず「行かないでくれ」と口に出てしまった事が印象的だ。

それから青雀の衣装から再び「星鴉」を纏った彼女が歌う「不可解」「そして花になる」。花譜について書かれた歌を花譜が歌うという事。彼女を私達が観測して、彼女が観測されているから花譜はここに存在するという当たり前のようで、それでもきっと当たり前ではない事実を改めて考え込んでしまった。

再構築された不可解は前回の最後の楽曲となった「そして花になる」では終わらなかった。「星鴉」から制服に着替えた彼女の横には前回の不可解の際にはいなかった理芽がその側にいた。そしてライブの最後の曲として歌われた「宣戦」


ライブの中盤にも歌われた「祭壇」「魔女」の流れを汲む楽曲だと気がつかされたのはオクソラ ケイタさんのイラストもあるが、やはりその歌詞だ。
「これは魔法だ」と力強く歌いあげた二人の曲は、紛れもなくそこに一つの世界を生み出した魔法だった。

そして今再び「不可解」での共犯者達の名前が並ぶまるで映画のようなエンドロールを挟み、花譜の独白のような台詞でライブは締めくくられ、そして次々に新しい試みが発表された。

すっかり大巨編の映画を観た後のように気が抜けていたものだから、この発表には尚の事驚かされた。これからの花譜の活躍、神椿STUDIOのアーティスト達の活躍に改めて胸を踊らさずにはいられなかった。


私にとっての花譜。
それは「正体不明の存在」から「素晴らしいアーティスト」になり「どこかにいる女の子」と変化を重ねていき、「不可解(再)」を見終えた今となってはその不可解な全ての印象が「花譜」を作り上げているのだ、とようやくこの舞台を観たことで気がついた。
他の誰かにとっては未だに「正体不明の存在」かもしれないし、また別の誰かには「神様のようなアーティスト」なのかもしれない。「不可解(再)」以後のこれからの花譜に出会う人はどのような印象を持つだろうか? 一人一人に観測されたその印象こそが花譜を花譜たらしめているものなのだと改めて思う。


卵の殻を割り、雛となり、さらに羽ばたく時を迎えた花譜が行く末は花譜一人の世界だけでなく、今回共演した理芽や春猿火をはじめとした神椿STUDIOの素晴らしいアーティストとのコラボから新しく広がる世界もあるだろう。その歌声が作り上げる魔法に魅了された一人として、花譜の変化を楽しみにしながらその行く先を見届けたい。

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