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『不可解弐Q1』感想 魔法を観測した

10月10日に開催された花譜の2ndワンマンライブ「不可解弐Q1」を見ました。とにかく凄いものを観てしまった……というその一言に尽きるのですが、なけなしの語彙力を振り絞って感想を書いていこうと思います。


バーチャルライブハウス PANDORA

去年開催された不可解、不可解再がリアルライブだったという事もありどういったバーチャルライブになるのか? という期待が高まる中配信画面に映し出されたのは薄暗い教会のような空間と「地球上の何処でもない場所」「バーチャルライブハウス PANDORA」という文字。

パンドラというと思い浮かぶのは「パンドラの箱」ですがパンドラという言葉そのものは「全ての贈り物」を意味するそう。ライブ後半で披露された曲達を考えるとこの名前の意味を色々と考えてしまいます。

パン(Παν)は「全てのもの」であり、パンドーラーは「全ての贈り物」を意味する。


第一部『観測δ』

「不可解再」の開幕と同じように「深化」から始まるライブ。青鴉の衣装で来るのかと思いきや、まさかの雛鳥黒。黒い衣装に水色の紋様が発光しているかのようでかっこいい。

開幕「不可解」「Re:HEROINES」「過去を喰らう」の激しい曲の3連続。これまでライブの後半で歌ってきた曲をライブの開幕で披露するという意外性もありいきなりブチ上がる。花譜バンドの曲間の繋ぎが本当にかっこいいんだ……。「Re:HIROINN」から「過去を喰らう」の繋ぎの時にぴょんぴょん飛んでる花譜の姿は可愛いのに曲が始まると力強い歌声に殴られて、このギャップがまた魅力だなぁとライブの開始早々に改めて思う。

今回のライブではこれまでのライブとは立ち位置が反転して花譜がステージに足をつけて立ち、バンドメンバーは「不思議な形状」になりスクリーンの中へ。ステージ背景のモニターはノイズ混じりに都会の街中を映すが、その中のビル郡のモニターは全て塗りつぶされたようになっている。


「私がすきな歌を歌うよ」と始まったカバー曲。ライブを見る度に思うのは一曲毎に花譜が歌への思いを語ってくれるのが好きな歌を歌っているんだなぁ、という実感があって嬉しい。

「地獄先生」「真夜中のサイクリング」「深海のリトルクライ」と歌ってくれた中でも個人的には「深海のリトルクライ」を歌ってくれたのがとても嬉しかった。最後の「はじめまして」の溶けてしまうような優しさに早くも限界になっていました。これまでのライブでは後日カバー曲も動画投稿されているので今から楽しみ。


そこからは怒涛のゲストを交えたパート。神椿のメンバーがゲストとなり一緒に歌う、というのは不可解再でも披露されていた事もあり想像の範疇でしたが、VALISとキズナアイとのライブでのコラボは予想できなかった……。中でもVALISはオリジナル曲を煮ル果実さんが担当していたり花譜がその曲をカバーしている、という事は知っていても予想の斜め上だった。可愛いイメージの強い「未確認少女進行形」がバックダンサーとして踊るVALISとネオンに照らされたステージでどこか怪しいイメージになるのが好き。

このライブの後日、10月14日にVALISが「未確認少女進行形」をカバーした動画を投稿しました。こちらは花譜が歌うそれとはまた違う可愛い雰囲気で良い。


意外という意味では春猿火との「命に嫌われている」でのコラボ。これまでのライブでは終盤で観測者達を感情の渦に叩き込んできた曲という事もありライブの前半、しかも力強いラップアレンジで殴りかかってきた事にとにかく驚いた。花譜に「死ね、うざい」という強い言葉を連呼されるとなかなかギョッとするものがある。

粗品提供の楽曲「サンパチスター」

私がアンテナ低いのもあってこの曲に関しては全く知らなかったのですが、花譜が歌う曲の中ではストレートに気持ちを伝えてくるのが新鮮で好き。漫才番組のテーマソングという事で舞台の始まる直前の楽しみに満ちたわくわく感もあり、不思議とどこかラブソングのような印象もあって可愛い。

それからキズナアイとの「ラブしい」。MCでは花譜ちゃんのオタクをやっていたアイちゃんが曲に入った途端に見事なパフォーマンスを披露するのは流石。このコラボ、どんな曲になるんだろう……!? と思っていたら可愛いのにオシャレで綺麗な曲が飛んできたので動画公開された時は「めちゃくちゃいい」しか言えなくなってた。ライブでの披露も本当に良い。この二人ってこんなに相性いいんだ……と驚いたものですが多分ゲストパートでそれずっと言ってた。

続けてヰ世界情緒とのコラボで「雛鳥」傘村トータアレンジ。情緒ちゃんに対してとにかく可愛いを連呼している花譜ちゃんが可愛い、隣に並ぶと意外と背丈の低い情緒ちゃんも可愛い。この二人の歌声が想像以上に綺麗で驚いてしまった。「雛鳥」を神椿のメンバーの中でも少女という印象の強いこの二人が歌うというのが楽曲のピアノアレンジも相まって更に切なくなっていて、とても美しかった。

ゲストパートが終わっても油断できないのが花譜のライブ。「心臓と絡繰」Guianoアレンジ好きしかない……。一番好きな曲がいきなり聴いたことのないリミックスで殴りかかってきたのでオタクはしにました。

「最後の曲です!」(このライブ最後の曲とは言っていない)と始まった大沼パセリさんアレンジの「糸」。花譜のライブと言えば彼女達の歌唱力の次に素晴らしい背景演出とリリックモーションが挙げられると思います。今回のライブでも素敵な演出の数々が3時間に渡って披露されたのですが、個人的にはこの「糸」の演出が今回のライブで随一だと思います。花譜を中心に激しく回転する世界、モニターの向こう側から溢れ出す歌詞の数々、絡みついた言葉が「解いて」という言葉と共にバラバラに壊れる演出。第一部の開幕が「不可解」であり締めが「糸」なのも不可解のセトリを逆転しているようだしこのライブ後半の事を考えると花譜のデビュー曲である「糸」を持ってきた事も興味深いなぁと思います。


御伽噺

少しの間と共に再び幕を挙げたステージ。「不可解」「不可解再」では1人だった舞台には新しく演者として制服を着た理芽の姿が。前回はまるで歌っている時とは別人のような花譜の姿に驚かされた思い出があるが、今回は理芽がまるで別人のような姿を見せてくれる。花譜に対して刺々しい理芽というだけでも普段の姉妹のような二人とはまるで違っていて驚いた。物語が進むにつれて「カーニバルの選別」「兵隊」「配給の不公平」といったきな臭い言葉が次々出てくる。前回の「第一幕」でも「ずっと昔に戦争があった」という台詞があった事を思い出す。
理芽と主人公がやってきた場所で話されるのは理芽による配給トラックを襲撃する計画。自分たちは奪われてばかりの立場からほんの少しだけ奪う側になると話す理芽。気になるのは主人公は理芽に貸しがある、という事。かつて二人(三人)に何があったのか気になり物語に引き込まれてしまう。
その翌日、花譜との通学風景の中で主人公は絵描きという事が語られる。「都の学校」というのも美術学校のようなものだろうか。そして「約束」は第一幕でのキーワードとなっていた言葉。御伽噺はこれからどうなっていくのだろう……。


第二部『MAGIC MOMENT』

花譜のライブが始まるとどうなる? 新曲が増える。第一部が「不可解」の逆転ならばここからは新しい幕開けとばかりに新曲が怒涛のように押し寄せてきた。
御伽噺の幕が閉まる間もなく新曲「痛みを」。「神椿市建設中」のテーマソングという事もあり街をキーワードにしたまるで小説のような歌詞のように感じた。「僕らは今でも負けない」という力強いエールが印象的。「御伽噺」からの続きもあり2つの物語は同じなのか? と思いきやその2つの物語は別々の物語との事がこの後のMCで語られた。

二曲目の新曲「メルの黄昏」。この曲のリリックモーションが凄かった。楽譜に歌詞が流れるような演出が印象的。初見の時はかっこいい曲というイメージが強かったもの、花譜のMCと一緒に考えてみるとメルという悲しさや寂しさを題材にするアーティストについてメルの側にいる誰かが語っている曲なんだなぁと気がついた。

青雀へ変身を挟み新曲はまだまだ続く。それまでの制服から青雀の衣装に変わると、衣装が変化しただけなのにどこか大人びた印象になるように感じる。

三曲目の新曲は「彷徨い」。これまでの曲とは違って等身大の少女のイメージが新鮮。「電車を降りたら知らない世界」「どうしても世界を知りたかった」という歌詞が特に印象的。

「景色」。電車で繋がれたMVも相まってまるで「彷徨い」の続編に「景色」があるように感じた。花譜が「僕は自由だ」と歌う事にいろいろな意味を感じてしまう……。どこまでも羽ばたいてほしい。

さらにそこから「アンサー」。この3曲の畳み掛けはまるで一つの物語のようで聴き入ってしまう。新しいこれからへの不安を歌った「彷徨い」から始まったパートが「正解のない旅をしよう」と語りかける曲で締めるの本当にいいですね……。これが文脈……。

染み入る切ない曲達の後は一気に盛り上がるパートへ。恒例の花譜バンドのメンバー紹介の流れから「危ノーマル」。何度聴いてもバンドメンバー紹介から楽曲へ流れていくの本当にかっこいい……。心が折れそうな時に聴くと元気が出る曲。差別なんて弱いやつのすることさ!

そこから四曲目の新曲「モンタージュ」。「私ほんとは宇宙人」「魔法瓶」という歌詞に「未確認少女進行形」との繋がりを感じるとても盛り上がる曲。花譜が「いつか誰かのなにかになれるから」と歌うのが、好きです。

まだまだライブは終わらない。青雀から更に「隼」へ変身した姿で歌うのは「戸惑いテレパシー」。黒い革のような質感がとても綺麗。バンドメンバーの演奏が加わるとただでさえかっこいい曲がさらに力強くかっこよくなるのでとてもいい。後のMCで「文字での感情表現が普及したけれどだからこそ重い言葉が簡単に人に伝わってしまう」という台詞に思わず頷いてしまった。

続けて「私論理」。ライブでの披露をずっと待ち望んでいました5Gを表現した隼の衣装で渋谷という都会を歌った「私論理」を「戸惑いテレパシー」に続けて歌うのは「それ!!」と言わざるをえないこのMVのリリックモーションがとても好きなんですがライブでのそれも鮮やかで素敵だった……。「カモン!」とか「HEY!」の時の花譜ちゃんありえん可愛いの何。

渋谷区はバーチャル渋谷をClusterで展開していて「私論理」が初公開された3.5DはVRChat内でバーチャル3.5Dが公開されていた事もあり、今回の配信ライブも踏まえるといつか花譜や神椿STUDIOのメンバーがVRSNS内でライブをする、なんて事もあるのかなと想像が思わず膨らむ。個人的にはteresaさんのVRSNS上での路上ライブとかすごく観たいです。

そして更に花譜は変身を遂げる。「特殊歌唱用形態 金糸雀」。「星鴉」との繋がりも感じさせる雰囲気の衣装ながら衣装の色が変化する、魔法陣のようなフードの紋様がそれこそ魔女のような雰囲気もある、のだけれどMCでの「私の語彙力が上がってしまった…上がってしまいました…?」「私の語彙力は53万です!」という語彙力のない台詞とドヤ顔で衣装の感想全部吹き飛んでしまった。可愛い。

それでもその衣装で歌う「畢生よ」はよりかっこよくなるからこのギャップの高低差に改めて惹かれるんだよなぁと思わざるをえない。私はまだ小説は読んでいないものの、これは小説を読んで歌詞との繋がりを考察したいと感じる魅力がある。

ここまで書いてきて気がついた事だけれども「不可解」とセトリを比べると第二部で披露された曲の新曲以外のほとんどがタイアップとして歌われた曲という事に気がつく。アニメ、渋谷、小説と様々な世界と花譜が繋がる事でこの先の花譜の世界が更に広がる事に期待せざるをえない。

そしてライブも終盤にして最後のゲストとして理芽が登場。最初に花譜と理芽が会話していた時のぎこちなさが今や懐かしく感じるほど今では二人のMCは自然体なのが微笑ましい。そして歌われたのは「アイスクリームライブ」以来の披露となる「まほう」。穏やかな雰囲気だった曲がサビで一気に花開くように盛り上がるのがたまらない。「ぐちゃぐちゃのどろどろ」という感情の表現が美しく感じてしまう。

そして花譜、理芽、春猿火、ヰ世界情緒という神椿スタジオの「魔女ガールズ」4人での「言霊」。バーチャル空間でのライブでバーチャルな彼女達が「私達は偽物だ」と歌う重さにやられてしまう。仮想の姿で歌われる歌でも力強く動かされるその感情は正しく本物で、その感情を「愛」だと歌う強さ。「愛よ、言霊となって世界を救って」という祈りの切なさ。魔法はきっとここにあるんだな、と信じられる強さがそこにあった。「私は歌を続けていきます」とMCを締めた花譜はどこか凛とした姿のように感じた。

ライブの最後の曲。金糸雀の衣装から改めて制服に着替えた花譜が話すこれからへの期待、不安。その姿は先程まで強い想いを歌う「魔女」の姿ではなく普通のどこでもいる女子高生。特に「今ではみんなが好きだと言ってくれるけど、そういう気持ちって永遠に続く事って少ないじゃないですか」という台詞には思わず息を飲んでしまった(だからこそ今ライブの感想を日々の積み重ねで忘れないように書き留めている)。

「花譜という形が仮初めの体なんだとしても、熱い気持ちは嘘じゃない。私の言霊だけは変えられない真実だと思う」と語る花譜が歌うライブ最後の曲「帰り路」
これまで歌ってきた「すきなうた」を飾るイラストを背中に歌う彼女の等身大の歌。これからの成長への期待も不安も「まぁいいや、今は楽しいから」とその前向きな気持ちを歌ってくれるのが、なんだか一人の「観測者」として嬉しくて。「本当の、あなたの観測も」という最後の歌詞にはふと涙腺が緩みそうになってしまった。

「花譜を観測してくれてありがとう」という言葉。「どこにでもいる普通の女の子」は観測されて花譜という名前の「魔女」になった。彼女が歌う歌はこれからどれだけの人に観測されていくのだろう。


エンディング、提示されたQ

花譜のライブを観た後はいつも映画を観終えたような満足感がある。それは感情を強く揺れ動かされたライブの満足感というだけでなくこのエンドロールがあるからより強くそれを感じるのだと思う。流れていくスタッフロールの一人一人が「不可解」を作るのに不可欠な技術者やクリエイターなのだなぁと考えると思わず見入ってしまう。エンドロールで歌われた曲の一つが「魔法」というのも最後まで唸ってしまった。

そしてエンドロールの終わりがライブの終わりとはならないのが「不可解」。最後の最後まで爆弾のように大きな情報を投下していった。その一つが「可不」の発表だ。

花譜の音楽的同位体「可不」。花譜の声がボイスロイドになる、という事だけでもひっくり返るほど大きな情報なのだけれど「聴くから創るへ」というPVの言葉が特に興味深い。観測者が誰でも創作者になるという可能性が生まれてしまった。可不に歌わせた曲を花譜が歌い上げる、という可能性もあるだろう(これは確実に「ある」と思う)。
花譜と同じ声だけれど全く違う存在の可不。同じ声を持つ人間と機械。これからどういった世界を二人が見せてくれるのかが楽しみで仕方ない。


そして最後のエンディングアニメ。

私はこのライブのエンディングをリアルタイムで観られなかったので「可不」の情報と共に流れてきた「神椿がアニメになった」という観測者達の驚きと困惑の様子を観ながら「どういうことだ??」となっていたのだけれど後ほど単品で上げられたこのアニメを見て思わずその壮大さに爆笑してしまった。

序盤のビルの屋上から都会を照らす朝焼けを見つめる主人公花譜、主人公を敵視するライバルポジションを感じさせる気だるげな雰囲気の理芽(なんとなく御伽噺での花譜に対して刺々しい理芽も想起させる)、太陽を見据える春猿火は第三勢力として暗躍しそうな強者としての雰囲気を感じさせ、図書館と思しき場所に座るヰ世界情緒は最初から物語の行方を知っている神様かのような諦観を見せる(ここまでオタクの妄想)

そうして桜の舞う教室の窓からグラウンドへ飛び降りる花譜、意味ありげなキーワードの羅列、そして謎の巨大怪物との対峙(と束の間の平和な日常の学生生活)「私達の物語はこれからだ」と言わんばかりに彼方を見据える四人……そうはならんやろ! 「つづく」の筆文字の勢いが良すぎてもはや世界観がTRIGGER作品のそれ。でもTRIGGER作品のように勢いがある神椿の面々が見たくないかと言われればそれはめちゃくちゃ観たい。


最後の最後まで(いろんな意味で)感情を揺さぶらされた「不可解弐Q1」。このライブで「不可解弐」は未完成でありまだQ2が来年に控えているという事実にもう驚いてしまう。「不確かなものを作ります」と提示された去年の花譜が一人で歌い上げた「不可解」から「不可解(再)」を経て、「不可解弐Q1」を花譜は神椿STUDIOの面々を始めとするたくさんのゲストと共に作り上げた。楽曲もタイアップソングとして歌われた曲が多く見られた。リアルのライブハウスからバーチャルライブハウスへとステージを移した。

今は単純に「不可解弐Q2」がどれだけのものになるのか、そこで投げかけられるQはどのようなものなのか。それが一人の観測者として、神椿STUDIOのファンとして、一人のVtuberファンとして、ただただ楽しみで仕方がない。「PANDORA」に残された朽ちたような人形達、「御伽噺」の物語の行方などすぐに思いつくものだけでもまだまだ明らかになっていない謎は多い。そういった物語も含めて「不可解弐Q2」を楽しみに待ちながら彼女達を観測し続けたいと思う。

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