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短編小説『ピンクちゃん』


ピンクのバラを両手いっぱいに抱えて
スパンコールみたいな東京の夜道を歩く彼女は
なんだかとても幸せそうで
すごく羨ましく思いました。


彼女は会社の元同僚。一緒にOLやってたの✌︎
お昼休憩にドトールで話すのが大好きだった。


彼女はね、初めて会った日からわたしに無いものをたくさん持っていてなんだかとても嫉妬しちゃう。
それと、彼女に無くてわたしにあるものを欲しがらないところにとても惹かれたんだ。

それから彼女への憧れはすごく強くなった。
彼女のことが気になって、つい色々質問したくなるけど、どうせ分かりやすいウソで誤魔化すか「内緒♡」で片付けられちゃうから、あんまり聞かないようにしとくの。
嫌われたくないし。


彼女とわたし、決定的に違うところは
『人生を楽しむ』考え方。

彼女はいつも  可愛い!  と思ったもの、楽しそう!  と思ったことを全部手に入れる。
そのためなら時間もお金も惜しまないの。
自分の身体を売ってまで手に入れちゃうらしい。
それも嘘かホントか分からないけどね?
どっちにしても、わたしはそんなことできない。

自分自身が大好きで、自分のために頑張る彼女は、いつも楽しそうですごく羨ましい。
それでもやっぱりわたしには真似できないや。


そんな彼女は、ある日珍しく落ち込んでいた。
仕事なんて全く手についていなかった。
コピー機すらまともに使えてなかったんだから。
常に放心状態で気力がなくて…なにより、らしくなかった。

まるで自分の敵を全て噛み殺してくれる絶対的味方の 右腕 を失ったようだった。

会社を辞めたのはそれから数日後。
きっとオトコができたんだろう。
わたしは寂しさと同時に少し安心した。これからの人生を楽しもうとしていたから。

送別会で何を聞かれても「ん、ま そんなとこ」しか言わなくて、多くは語らない彼女に相変わらず憧れた。
何となくだけど、もう会えない気がした。どこか遠くに行っちゃうようなそんな気がした。
わたしも彼女みたいにどこかどこかどこかに行きたいな。


それからまた数日後、呑み会の帰りに偶然彼女を見かけた。
高級そうなトランクケースを両手で抱え、眠らない東京の隅っこをトボトボ歩いていた。
白いワンピースを着て大きな麦わら帽子を被った彼女は、なんだかとても悲しそうで、今にも壊れそうだった。

両手で抱えたトランクケースの中に、大切な人の骨でも入っているかのようだった。




あれからどれくらいが経っただろう…
今日は彼女と久々に会うことになった。
いつものドトールでお茶するの♩

最後に彼女を見たのは、あの壊れそうな夜道だったから心配したけど、わたしをお茶に誘う彼女の声はOLの頃のまんまだった。
色々気になることはあるけれど、また分かりやすいウソで誤魔化すか「内緒♡」で片付けられちゃうからあんまり聞かないようにしとくの。

…あ!  ユミちゃんだ!!

待ち合わせ場所にきたユミちゃんは、ピンクのマニキュアを綺麗に塗って大きなワニ皮のカバンを持ってきた。
なんだかとても幸せそうだった。

それから

ワニを飼っていた日のこと
そのワニに他人ん家のプードルを食べさせたこと
財布泥棒から願いが叶う花の種を貰ったこと
まま母をバットで殴ったこと
小説家の彼氏がいたこと
南の島に行く計画をしていたこと
彼氏が死んじゃったこと

いろんな話を聞いた。
なにが嘘でなにがホントかわかんなかったけど、全部全部楽しそうに話してくれた。

今のユミちゃんは、前とは違う。
欲しいものは全部手に入れた顔をしている。
なんだかとても楽しそうだった。


帰りに寄ったお花屋さんで、バラを見ていたユミちゃん。
あまりにも幸せそうに見るもんだから、お店の人がサービスで1本くれたんだ。




ピンクのバラ1本とワニ皮のカバンを持って
スパンコールみたいな東京の夜道を歩く彼女は
やっぱりとても幸せそうで
ほんの少しだけ羨ましく思いました。






知人から紹介された岡崎京子さんの『pink』
作品が好きすぎて、ユミちゃんが好きすぎて、出会ってすぐに3回読み返しました。(少な)

自分と対照的な性格のユミちゃんは 毎ページ幸せそうで…、読んでいてとても楽しかったです。
ワニを失って壊れていくユミちゃんを見たときはとても心配したけど、数ページめくると南の島に行こうとしてたり彼氏とめちゃくちゃエッチしてたりでもう完敗でした(大好き)

ユミちゃんみたいに生きたいけど、わたしはきっとユミちゃんになれないから、せめて同じ職場で働くOLになれないか…と勝手に自分の立ち位置を『pink』から探したことがありました。どうしてもユミちゃんに近づきたくて!!w

勝手ながら、ユミちゃんの同僚となり『pink』を読んでユミちゃんに抱いた感情と、こうあってほしいと思う続きを妄想しました。

『pink』の最後は決してハッピーではないけれど、例えあの夜 飛び立つことができなくても、オトコも仕事も失って自暴自棄になったとしても、ユミちゃんには ワニ(今となってはカバン😭)さえいれば幸せになれる!と期待しています。


自分で自分を幸せにするユミちゃんに出会い、リアルに考え方が変わったことがたくさんありました。
ユミちゃんは完璧な女性とは言えないのかもしれないし、必ずしもそうあるべきとは思わないけど、遅ばせながらあなたに出会えて良かったです。


ユミちゃん大好き🩷

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