ボツ

「家庭の幸福は諸悪の本」という金言を、以前に何某かの本で目にした。これはいささか大仰であるように思われるが、少なくとも家庭の幸福がそういった可能性を内に孕んでいることは、どうやら全く退けることのできない事実であるようだ。幸福な家庭においてしばしば、子どもを彼自身に先験的に備わる罪悪による苦悶へと追い込む種子が、誰も知らないうちに発芽することがある。この子供の堕罪の苦しみは彼の親に責めがあるわけではない。憎むべき対象を欠いた苦痛。行き場を失ったそれは瞬く間に翻って私を絞め殺さんとしたのだ。

構成はできあがってこの先も暫く書いたが、カフカに打ちのめされて書けなくなった小説の冒頭。供養。

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