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おふくろの味

すーたろーが上京する少し前、母はせっせと母の味を食べさせていた。そもそも、東京の塾へ合宿に行ったり受験に行ったりしたすーたろーだったが、その数週間の生活ですら慣れずにチェーン店の味で凌いだ男である。

母は、もう少しで自分の味から離れる息子にたくさん食べさせていた。わたしが結婚する時も、にゃぁが就職した時も、母は母の味をたくさん食べさせてくれた。
わたしの場合、味というのは記憶に残りにくい。でも、母の味だけは覚えている。何度も食べたいろいろな料理を、食べるとそれだけで思い出す思い出もまた、エモーショナルである。

上京したすーたろーは、その後も帰宅するたびに彼なりの母の味を求めた。わたしやにゃぁも食べたいので、毎回メニューは争奪戦になる。
時には和食、時には洋食。同じ作り方をしても決して同じ味にはならない母の味。忘れないように食べるのが、毎回のお決まりである。

すーたろーも結婚し、今は配偶者の味を楽しんでいるのだろう。帰宅するたびに求める味は昔から変わらない。そう、母の味とは今も昔も色褪せないのだ。

#上京のはなし

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