見出し画像

あまり行かない喫茶店で

私はコーヒーが好きだ。だからといって特段大きなこだわりはない。強いていうなら「ドリップコーヒーが好き、酸味の強い豆が好き」ということくらいだろうか。

コーヒーを飲むようになったきっかけを思い起こせば中2か中3くらいまで遡る。
期末テストの一夜漬け勉強で寝落ちしないために眠眠打破とインスタントコーヒーを混ぜた「劇的に不味い飲み物」として"摂取"したことだろう。

もはやコーヒーといえるものではないので、あえて"摂取"と表現しておく。この時は好きだから飲む・味わうのではなく「カフェインが摂れるもの」として飲んでいた。いや、摂取していた。

高校生になってからはエナジードリンク代わりに缶コーヒーを飲むようになった。スタバで友人と勉強するようになってからはコーヒーを飲むことが当たり前になった。

この時は「甘党ではあるが、甘い飲み物を飲み続けるのは苦手」という最もな理由と「周りがフラペチーノを飲む中、自分はコーヒーを飲んで人とは違う感を出したい」という厨二病が混ざっていた。

当時スタバにはバナナパンケーキという商品があって、それに蜂蜜をかけてコーヒーのお供として食べるというのが密かな楽しみだった。

one moreコーヒー*も当時は100円だったので、それで長居しようという魂胆も見え隠れしている。

[補足]
*スタバはコーヒーを買ったレシートを渡すと当日限りでどの店舗でも同サイズのコーヒーをお代わりできる。現在は150円(税抜)くらい?プラス払えばカフェミストも飲める。
※勉強や仕事、ゲームを目的に長居することは店の迷惑になるのでTPOは弁えましょう!

飲めないコーヒー 飲み干して
徹夜していた頃は分からなかった味や香り。

"人とは違う"そんなモラトリアムの
「背伸び」の象徴だったコーヒー。

いつしか好みの味を持ち、コーヒーは
私のリフレッシュであり「日常」になった。

大学時代は課題のレポートや卒論を書くために入り浸ったお気に入りの喫茶店があった。主な客層は中高年で、若者は自分くらいだった。たまに近くのスタジオで鳴らしてきたのであろうバンドマンや家族連れが訪れ、店内は常に賑わっていた。

その賑わいが私には心地よく、店内には並ばず入れて、程よく集中もできて、コーヒーも飲めて、小腹が空けばトーストが食べられる。まさに私だけの穴場スポットだった。

周りの声が騒がしいわけでもなく、大人たちが談笑する"賑わい"がなんだか妙に温かく、店内の雑多さも居心地の良さを作っていた。

この賑わいを作っている一つに、今の時代には珍しい全席喫煙OKというのも大きい。愛煙家たちがこぞって、この喫茶店をオアシスとして愛用していた。

私は吸わないが居心地が良かったので煙はさほど気にはならなかった。だが、客のほとんどが喫煙しているので、30分、1時間と店に居れば衣服にタバコの臭いがこびりつく。

店を出てすぐ「自分タバコ臭っ!」となるくらい、吸わない私がヘビースモーカーばりのタバコ臭を放つのだ。

そうそう。アイスコーヒーを注文すると「甘さいりますか?」と聞かれるのも、この店の特徴だ。最初は何を言われてるのか分からなかったが、しばらくして「ガムシロのことか」と気づいた。そして「いりません」と答えた。私は元来、コーヒーはブラック無糖派である。

アイスコーヒーはステンレスのプレートに乗って、細長いグラスに注がれてやってくる。これもまた、この店の味わいを出していた。

トーストの話もしたい。パン自体は業務用といった感じの食パンだが色々バリエーションがあった。バターの塩気とハチミツの甘さで甘じょっぱさを醸し、そこに塗されたピリッと光る黒胡椒が良いアクセントのハニーペッパートースト。クリームが乗り、デザート感覚のシナモントーストも良い。小腹も糖分も満たしてくれる。コーヒーにもよく合う。

実を言えば全てにおいて「特別」は、なかった。
他店と比べて「これが絶品!」とか「この店の名物!」といった代物はない。どれもこれも、味も見た目もとても普通なのである。

メニューによっては味気なく感じることさえある。

しかし、その普通さに安堵し、美味しいと感じる。また食べたくなる。

私にとっては「特別」な店である。なかなか、この様な喫茶店には出会えない。

大学を卒業してもう何年も経つ。いつしかいつもの喫茶店は、あまり行かない喫茶店になってしまった。

あの店員のお兄さんは今も注文をとっているだろうか。年配の店主は今も元気だろうか。

また居心地とコーヒーを求めて、あの喫茶店の扉を開きたい。


それでは聴いてください。
あまり行かない喫茶店で / never young beach



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?