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あなたのことを忘れない

スーパーマーケットのレジのアルバイトをしています。
今は週一しか入っていませんが、現在の店舗での勤務はもう8年目になりました。顔なじみのお客様も多く、話しかけていただくことも増えました。

いろんな方がいらっしゃるのですが、時々「わあ。この人いいなあ。こんなふうに年をとりたい!」と思う方がいます。でも、「わあ。この人いいなあ。」の自分の基準は何なのかがわからないんですよね。陽気な方や朗らかな方っていうのはもちろん素敵なんですけど「こんなふうになりたい」とまで思うのはもうちょっとなんか違うんですよね・・・話しかけてくれる内容なのかなあ。表情なのかなあ。とにかく時々最高にあこがれてしまうような素敵な人がいるのです。

その人もそういう人だったんです。
仮にМさんとします。(名前はわからないし)
お年は80代くらいだと思います。
お買い物に来てくれるたびにすぐに笑いかけてくれました。
これおいしそうよねとか話しかけてくれて、いつも仲良くしてくださり、ちょっとしたご自分の生活の話なんかをしてくれるのです。そういう話の中にМさんのお人柄が垣間見えるようでした。
見栄もはらず無理もなくちょっと一歩下がったような雰囲気で、やんわりと気遣ってくれるようなやさしさというかあたたかさとユーモアがあって・・・そんな方なのです。
ちょっとうまく言えないんですけど・・・

仲良くしてくださって優しくていつも笑顔で…という方はほかにもたくさんいるんです。でも違うんです。微妙に違うんです。どこがどう?っていわれると困るんですが、
でも私にとってМさんは「わあ、この人いいなあ」という人だったんですね。

Мさんに最近お会いしていないことはあまり気になっていなかったのですが、ある日お店にいらした時に「あ!Мさんだ!すごい久しぶりだなあ!」と感じました。ずいぶんお会いしていなかったことをその時とても感じました。

Мさんは同じ年くらいの女性や男性と一緒にお店に入ってきました。先頭には50代くらいの男性がいて「はい、こっちですよ~。離れないでくださいね」と言っていました。

あ。Мさん施設に入ったんだ。と思いました。

Мさんはかなりやせていました。でもまだまだしっかりと歩いていましたし買い物かごを用意したりカートを押したりしていて50代くらいの男性の手伝いをしようしようと気を使っている様子でした。
Мさんだ。Мさんだ。と私は嬉しくなって目をあわそうとしました。
一瞬目が合って、急いでニコッと笑いかけたら
Мさんはなにもなかったかのように視線をそらして・・・

その目はかつてのМさんの目ではありませんでした。
どよんとした目で床の一点をみつめていました。
それでも施設の人の買い物がおわるとすぐにカートを近くに持ってきたりして、Мさんらしい相変わらず一歩下がったような気の使い方をされている様子で、「ありがとうねえ」などと言っているのが聞こえました。

Мさんはもう私のことなどわからないのだ。

でもМさんの「人間」は私にはしっかりと見えると思いました。
あたたかで人を気遣うことを忘れないМさんの「人間」は日常の記憶を消してしまったとしてもこんなにしっかりと残っているのだと感動しました。

その後もМさんがお店に来てくれるたび私はМさんをじっとみてしまいます。

もう以前のようには笑ってくれないけれど
あなたの笑顔はかわいかったこと、
冗談がおもしろかったこと
しっかりと生活をされていたことがよくわかる雰囲気を感じていだことを覚えています。
あなたのお人柄が好きでした。

私はあなたのことを忘れません。
すてきなお人だったこと、
ずっとずっと忘れませんよ。



はしまささんのステキな作品を使わせていただきました。ありがとうございました。


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