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天敵彼女 (55)

 短いようで長い距離だった。

 佐伯の気配を背後に感じながら、俺はその時を待った。

 もう校門は見えている。いつもならとっくに着いているはずなのに、今日はどうしたんだろう? 

 さっきから後ろでヒューヒューいっているのが聞こえる。明らかな挑発行為だ。俺は、うっかり佐伯を粛正しそうになったが、ギリギリで踏み止まった。

 ここはまだ外で、隣に奏がいるからだ。

「どうしたの?」

 奏が俺を見た。

 余りにタイミングが良すぎて驚いた。相変わらず、佐伯はウザいが、奏の為にも今は我慢しようと思った。

 俺は、話を逸らした。

「えっ? 別に何も……」

「そう? 何だか怖い顔してるよ」

「そ、そんな事ないよ。それより、急ごう。もう時間がない」

「分かった。都陽、佐伯君、峻が急ごうって」

 それからすぐ、俺達は校門を通過し、教師と何とか委員に会釈した。
念の為周囲を見回したが、学校関係者以外はいないようだ。

 そろそろいいんじゃないか?

 俺は、佐伯に疑問をぶつけようとした。

 早坂に何をしたんだ? どうせろくでもない事をしたんだろう?

 俺は、場合によっては実力行使も辞さない構えだったが、後ろから唐突に誰かの声が響いた。

「おーい、急げよっ!」

 振り返ると、さっきの教師だった。

 そういえば、今日はいつもより遅い時間に家を出たんだった。

 俺は、時間を確認する為、校舎の壁面時計を見た。

「まだ十分くらいあるじゃん」

 そう呟く俺に、奏がスマホの画面を見せた。

「後三分だよ!」

 そう言えば、あの時計は良く遅れるので有名だった。

 遅刻ギリギリで見ると大抵痛い目にあう為、一部の生徒からディープフェ
イクと呼ばれ恐れられている。

 うちの生徒でこの時間帯にD,F,(時計)を見上げるのは、余程の間抜けか一年生だけだ。

 俺は、もう二年生……にもかかわらず、転校したばかりの奏ですら引っかからないトラップにドハマりしてしまった訳だ。

 相変わらずの情弱ぶりを発揮した俺にジト目を向ける佐伯。

 俺は、とっさに声を張った。

「佐伯、急ぐぞっ!」

 俺達は、とりあえず教室に急ぐことにした。

 今は、早坂の件で佐伯を問い詰めるのはなしだ。

 佐伯、命拾いしたな……クソ雑魚臭漂うセリフを心の中で呟きながら、俺は速足で教室に向かった。

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