Vol.13 悪魔のケケケ

Dec. 2010

 私もついにプロの仲間入りを果たした。
 以前このコラムで、プロたる者が(MacBook)プロを使わなくてどうする? というようなことを書いた。とはいえ、なかなか欲しいMacBookシリーズが登場せず、ただ薄くて軽いだけのエアを使い続けてきた。出張の多い私としては、とにかく軽くて軽快に動くMacが欲しかったのだが、いいかげんエアはハードディスクも残りわずかになり、動作も挙動不審になりがちで、信頼できる相棒と呼ぶには心許ない存在になりつつあった。

 4月になり、iPadを即買いしてiWorkアプリをインストールし「もうこれだけで生きていく」と宣言したものの、最初のうちは本気でそう思っていたのだが、どうやらiPadは仕事に集中することができないということに気がついたのだ。

 iPadの場合、出張時の荷物の重量が大幅に軽減されるのは魅力的で素敵なのだが、例えばキーノートでプレゼン資料を作成していたとしても、いつの間にかi文庫HDでマンガを読んでいる。
ページズで本コラム原稿を書いていたと思ったら、Osfooraでツイッターを見ていたりするのだ。
これでiPadのiOSがマルチタスクに対応なんてことになった日には、もう仕事どころではなくなるのは目に見えている。

 そうこうしているうちに、私の仕事仲間2人が揃ってプロの17インチを購入し、顔を合わせる度に「17インチ最高すよ、ケケケ」というような話をしながら、エアで仕事をしている私をチラチラ見ながら嘲笑している気がする。彼らは、あきらかに以前より巨大な鞄を持ち歩くようになっているにも関わらず、プロは快適だという。

 私が欲しいのは、小柄ながら筋肉質でパワーのある、千代の富士のようなMacだ。ところがMacのラインアップを見るかぎり、私の条件を満たすモデルは存在しない。だが、店頭で実物を見れば少し印象が変わるかもしれない。そこで私も一大決心をすることにした。

「欲しくなくても、買う」

 ここ数年はアップルストア以外では購入したことがなかったものの、せっかくならポイントが付く量販店で買ってみようと思い、まずは某カメラ量販店へ行ってみることにした。
 13インチから17インチまで整然と並べて置かれたプロを見ると、13インチ以外は重いし、大きすぎる。だが15インチ以上はコアiシリーズのプロセッサなのに、13インチだけがコア2デュオなのだ。
実際のところ、それがどれほど違うのかさっぱりわからないのだが、新しいほうがいいに決まっている。だが、新しいに越したことはないのだが、重いのは嫌なのだ。というわけで「欲しくなくても、買う」と決めた以上、この目の前にある13インチのMacBookプロを買うことにした。

 こうなると細かいスペックなんか、もうどうでもよくなってくる。この店は「他店より1円でも高ければ…云々」と表記している店だ。赤いベストを着た店員さんに「コレ欲しいんだけど、某電気より高いから安くして」という交渉をしてみたところ、あっさりと

「そうですか、でもこれ以上は無理ですね」

と、耳を疑うような答えが返ってきた。だったらなぜあんなことが書いてあるのか? 腹立たしいのですぐ隣駅の某電気に行くことにした。同じモデルの価格を聞くと、予想以上の値引きで、さらに21%ものポイント還元。最初からそんな条件を出されると、もう交渉なんかする気にもならない。

「このMacBookプロをください」

 ついにプロの仲間入りが現実のものとなった瞬間だ。旧機種からの設定移行なんてのは、調子の悪さまで引き継いでしまいそうだし、気分が悪いからやらない。何も知らない無垢の状態から、私という人間をじっくりと教え込んでやるのだ。汚れを知らない状態で使い続けたいので、本来ならインターネットのような「毒」にも触れさせたくないのだが、そういうわけにもゆかず、渋谷の街に大事な娘を放り出すような気持ちでネットの設定をした。

 アプリを起ち上げてみると、フォトショップもサファリも恐ろしく快適だ。今までの環境は何だったのか?と思えるほどだ。もしかするとコアiシリーズはもっと快適なのかもしれない…イカンイカン。これで「プロの仲間入りをする・でも軽いヤツ」という2つの目的は達成できたのだから、多くを望んではいけない。

 それからというもの、気分よくサクサクと仕事をこなしていたのだが、某日、本誌の打合せで

「MacBookプロ買ったんすか〜? 新しいエアが出るかもしんないすよ。速くて軽いヤツが、マジで、ケケケ」

という編集長の悪魔のような一言が、私のハッピー気分を谷底に突き落としてくれた。
 これを書いている時点ではまだ発表はされていないが、確かにネット上では新型MacBookエアの予想が繰り広げられている。その情報を読めば読むほど、求めていた理想のMacBookのカタチがそこにあるような気がしてならない。

 おそらく、本連載の数ページ前では、新型MacBookエアの特集がされていることだろう。だが、私は悔しいとか欲しいなんてことは、ここに書かない。私は1週間前に買ったばかりの、この新品MacBookプロで、この原稿を書いている。今こうやって書いていることをすべて、この愛機が監視しているような気がするし、それにヘソを曲げられて再び調子が悪くなったりでもしたら元も子もない。

 ただ、少し気になるだけだ。どんな形をしているんだろう? 軽いんだろうな、薄いんだろうな…。
なんであれ、新型が噂どおり「エア」であることを望む。

なぜなら私が欲しかったのは「プロ」なのだ。


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