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『民主主義とは何か』(宇野重規)

東大教授の宇野先生による民主主義の基本について書かれた本です。専攻は政治思想史だそうです。

私は民主主義時代の日本に生まれ、現在も民主主義国家です。
なので民主主義がスタンダードであり、それが正しいものだと思っていました。
ところが昨今のコロナ禍により民主主義だと政治的判断のスピードが遅い等の問題が発生しました。
有事体制の取れる国や独裁国家は私権制限や政府の個人情報管理により、新型コロナウィルスをうまく抑え込んでいるように見えました。それに比べると日本は有事の対応がとても遅いように見えます。
そうすると「民主主義ってどうなの?」という疑問も生まれてきますよね。

というわけで本書を手に取ったわけです。細部を理解するのは容易くなかったですが、大枠として新しい知見を入れることができましたので紹介します。

民主主義は昔から批判されている

古代ギリシャの時代にはすでに民主主義がありました。しかし民主主義はその時からかなり批判されていたようです。批判の急先鋒はプラトンだそうです。

「えっ、プラトンは民主主義肯定してそうじゃない!?」

と思うじゃないですか。違うんですよ。プラトンの師匠であるソクラテスは民主的な裁判結果により死刑の判決を受けるのです。その判決に衝撃を受けたプラトンは民主主義への疑問を持ち、多数者の決定だからといって全てが正しいわけじゃないと考えたわけですね。

そのあとも古代ギリシャでは大衆を扇動するためのデマゴーグの話もあり、ポピュリズム政治の話もあり、今の日本でも散見される民主主義の問題がすでに起こっていたそうです。そんなこともあるので、プラトンに限らず「民主主義っていいのかい?」というふうに批判にさらされていたそうです。

ちなみにプラトンの弟子のアリストテレスは民主主義に相応しいのは選挙じゃなくて抽選だと主張していたそうです。抽選で国会議員を決めるみたいなことですね。
なぜ抽選がいいかといえば、選挙だと特定の人ばかりに限られてしまうからです。抽選であればランダムなので誰が政治にコミットするか分かりません。突然コミットされるかもしれないので自然と全員が政治に意識が向くというロジックのようです。

そういうわけで古代ギリシャの時代から民主主義はあるわけですが、ずっと批判されて続けていたようです。それから一気に時代を雑に飛ばしますが、フランス革命勃発して貴族社会が終わり民衆の手に政治が戻ってきました。ここから民主主義が割と肯定される時代に途中するのです。なので民主主義って2500年前からあるけど肯定的に捉えられている時代でここ200年ぐらいなのです。ちょっとびっくりじゃないですか?

日本の投票率が低いのなぜ?

日本も明治維新により民主主義がやってきましたが、日本こそ民主主義の歴史が浅い国なのです。
国政選挙でも投票率は五割程度と言われています。普段は政治に無関心でも、その時代の空気によって投票が一気に増えることもあります。古代ギリシャで過去に起こったことを現代に繰り返していたりするわけですね。

実際問題、日本国民で政治に関心ある人は五割ぐらいなのだろうと思います。
それ以外の人は政治に関心がなくても困らないから投票しないのだろうと思います。
投票しなくても困らないのは「日本は平和だから」ということもありそうです。
本書にもコロナ禍について書かれていましたが、コロナ禍によって民主主義や政治について考えた方もいるのではないかと思います。きっと日本よりも前に民主主義に取り組んでいる国は、民主主義体制の元コロナ禍のような事件を何度も繰り返して、民主主義をブラッシュアップしてきたのだろうと思います。そういう意味ではまだまだ日本の民主主義は時代の風雪を受ける期間が短いのだろうと思いますね。

著者紹介

最後に宇野先生を紹介します。
この手の本は著者のバイアスがかかってそうなものですが、あくまで基本の姿勢を崩さなかったところに好感が持てました。ちなみに宇野先生は昨年の学術会議騒ぎにより任命されなかった学者の一人のようですが、任命されなかった件のコメントは潔いものでした。

また民主主義において大事なことを三つ述べています。

1:「公開による透明性」
2:「参加を通じての当事者意識」
3:「判断に伴い責任」

1は政治決定のプロセスですね。2は無関心じゃなくて政治に参加して当時者意識を持つこと。3は政治リーダーだけじゃなくて自らの可能な範囲で公共に任務に携わり責任を持つこと。これが民主主義において大事なことだそうです。
民主主義は単純に「多数派の言うことが正しい」ではなく、民主主義の下では「全ての人間が平等で多数派によって抑圧されないように少数派の意見も尊重されなければならない」ということも忘れてはなりません。
私は有権者の資格を得てからは選挙にいってますが、もうちょっとよく考えて投票しようかなと意識が変わる本でございました。あと細かいところは難しかったですが、民主主義の歴史もざーっと把握できたことは良かったですね。

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