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『映画を早送りで観る人たち』(稲田豊

昭和生まれの皆さん、うすうす感じていませんでしたか?
最近の若い人が「映画を早送りで観ている」という事実に。
そしてそれに憤りを覚えていませんでしたか?
「ニュースや教育動画なら分かるけど映画を倍速で観たら十分に味わえないぞ」と。

そういう昭和生まれの人のヘイトと若い人からの反発も生まれそうな、胸がザワザワするタイトルの本ですね!
ところがどっこい、読んだらとっても面白かったのでシェアします。


若い層の方が早送りで観る

マーケティング会社の調査によれば、若い層ほど早送り機能を使って動画や映画を観る傾向にあるそうです。年代で言えば20代が多くて、調査した20代の49.1%が早送り機能を使っているようです。
この記事を書いている私は昭和生まれなので、早送り懐疑派であり、なんで早送りするかよく分からない人です。
20代じゃなくても早送り肯定派の人はその理由が当たり前のように分かるかもしれませんね。本書に紹介されていた早送りする理由をご紹介します。


・「鑑賞」じゃなく「消費」、話題作り目的
映画を芸術だと考える人は早送りせずに鑑賞したいでしょう。でもそうじゃなくて娯楽コンテンツだと考えたら「消費」できれば良いです。友達の会話のネタとして、話題になった映画やドラマの内容を把握する必要がある。でも時間がもったいない。だから倍速でみて、内容だけ把握したいというニーズがあるようです。

・コスパとタイパ重視、無駄なことはしたくない
若い人ほどコスパとタイパを重視するそうです。なので遠回りをしたくないんだそうです。昭和生まれの人は「無駄なことも大事」みたいなことをどこかで教わったかもしれませんので、「つまんねぇ映画だ」と思っても、最後まで観たらなんかあるかもしれないので最後まで観たりしないでしょうか。でも若い人ほどそんな無駄なことに時間を使えないので、2時間の映画を1時間で消費して、コスパやタイパを上げたいそうです。

でも、ここで面白いのは映画館で観るときは早送りがあっても早送りしないで観たいそうです。それは1900円という対価を払った感が大きいからです。Netflixなどのサブスク動画は月額でいくらか払っていますが、それはあまりお金払った感がないんだそうです。だからそこで観れるコンテンツに対する価値も低くなり、早送りで観てもいいや、ってなるそうですね。

・失われた30年も映画倍速視聴者を作る要因に
あとは日本の経済的な背景もあるようです。失われた30年というように、日本は経済成長ができておらず、物価も給料もあんまり上がっていません。これは若者世代にも直撃しており、学生はお金も時間もないそうです。つまり学費のためにアルバイトをしているわけです。
お金がないなかでどんな娯楽があるかというとサブスク動画になり、時間がないから倍速で観ちゃう、ということです。
最初は「映画を早送りで観るとは。。!」と思いましたが、背景を知るとなるほどと思いますね。

Z世代のコンテンツとの向き合い方

本書の後半になると、Z世代のコンテンツ消費論について論じられており、これも面白かったです。

若い世代にとってSNSに「この映画面白かった!」というはハードルが高いそうです。逆に「つまらん!」というのは言いやすいそうです。

逆のような気もしますが、それはなぜか。面白かったと言って、別の誰かがそれを観て「つまらん!」と言われるのが辛いそうです。また「こんなものを面白いと言ってるの?」と言われるリスクも避けたい。それよりは「つまらん!」と言っておけば、被害者としての立ち位置を確保できますし、逆にそれを観た人が「面白かったよー」と言ってきてもノーリスクです。

また2000年代に発売されたSMAPの『世界に一つだけの花』に代表される個性を大事にする風潮もZ世代には辛いようです。ナンバーワンを目指すギスギスした競争社会じゃなく、オンリーオンでいいんだよ、という優しい時代を作るつもりが、目立つ個性がないことで逆に苦しむ結果になっているようです。
何かを好きとSNSで呟いても、「面白くない」と言われたり、それをもっと好きなネット警察がやってきて、「そんな浅い理解で好きと言ってるのか?」とディスられる始末。だから本当に誰もが認める不朽の名作ぐらいしか「好き」と言えないレベルだそうです。

個性を大事する時代っていい時代だと思っていたんですが、よほど飛び抜けた個性じゃないと許されないような空気があるようです。で、大体の人はそんな個性はないので無難なことしか言えない。というか何も言わないのがいい、ということらしいですね。

いやー、なんだか生きづらいですね。。

はい、このようにいろいろ書きましたが、これも時代の流れの一つです。今は早送り視聴について論じましたが、ひと昔に遡れば、映画館じゃなくて地上波で観たり、レンタルビデオで映画を観たりすることに批判もあった時代もあったことでしょう。でも今やそれを批判する人はほぼいないと思います。

だから今のZ世代が30〜40代になった時、その下のα世代がまた別のコンテンツ消費をしていると思います。そのときZ世代は胸がザワザワするような憤りを覚えるでしょう。そういう時代の流れを分析することで新しい流行やニーズを捉えられるので、こういう社会分析の本は面白いですね。

あと著者の最後の一文が面白かったのでシェアして終わります。

本章序章の最後で筆者は、「同意はできないかもしれないが、納得はしたい。理解はしたい」と記した。たしかに、多くの人が倍速視聴せざるをえない背景には納得した。倍速視聴がどのように必然を獲得したかも理解した。だが、それでもやはり思うのだ。

映画を早送りで観るなんて、一体どういうことなのだろう?

映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ−コンテンツ消費の現在形 (光文社新書)

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