プレー解剖 ハドレー・パークスのキックの効果:パナソニックワイルドナイツ対サントリーサンゴリアス(5月23日)<3>
今日はラグビーに戻り、日本選手権決勝、パナソニックワイルドナイツ対サントリー戦の「プレー解剖」。31-26でパナソニックが勝ったこの試合、レビューは既に書いたが、今日はキックを細かく見てみる。
この試合は非常にキックの多い試合で、サントリーが18回、パナソニックが21回キックを使った。そのうち前進に成功したのはサントリーが10回、パナソニックが13回。まず、リターンキックを除くキック(再確保、プレーエリア前進、後退)を細かく見てみよう。
サントリーのキックの内訳
まずはサントリーから。
1分:バレットのハイパントを再確保
14分:バレットのキック。パナソニックがタッチに蹴り出したためマイボールラインアウト
25分:バレットのロングキック。パナソニックがノックオン
31分:バレットのハイパント。パナソニックがノット・リリース・ザ・ボール
40分:流のハイパントを再確保
43分:バレットのハイパント。パナソニック(ライリー)がカウンターからショートパントを蹴るがサントリーがキャッチ
43分:流のキック。パナソニックがタッチに蹴り出したためマイボールラインアウト
49分:バレットのキック。パナソニックがタッチ(ダイレクトタッチ)に蹴り出したためマイボールラインアウト
63分:流のハイパント。パナソニックがノット・リリース・ザ・ボール
74分:江見翔太のショートパント。パナソニックがノックオン
後退したのは
17分:パナソニックのハイパントをキャッチして流がキック。ただしドロップアウト
47分:バレットのキックパスを江見がノックオン。パナソニックがカウンターからゲイン
パナソニックのキックの内訳
次にパナソニック
6分:松田のハイパント。サントリーがボールを確保するも前進
13分:ラックのターンオーバー(自陣22mライン手前)からライリーがロングキック。サントリーが確保するがタッチキックでパナソニックボールのラインアウト
21分:ハドレー・パークスのショートパント。サントリーがタッチに蹴り出しマイボールラインアウト
25分:松田のキック。サントリーが確保するがプレーエリアは前進
26分:野口がショートパント。自分でキャッチして福井翔大のビッグゲイン
36分:ハドレー・パークスのキック。サントリーがタッチに蹴り出しマイボールラインアウト
39分:ハドレー・パークスのキック。サントリーがタッチに蹴り出しマイボールラインアウト
44分:野口のキック。サントリーが抑えるもターンオーバーに成功してゲイン
47分:福岡がショートパント、自分でキャッチしてゲイン
48分:コーネルソンのキック。サントリーが確保するがプレーエリアは前進
50分:松田のハイパントを再確保
51分:ハドレー・パークスのキック。サントリーが抑えるもタッチに押し出しマイボールラインアウト
65分:山沢のキック。サントリーがタッチに蹴り出しマイボールラインアウト
後退したものをまとめてみると
10分:内田のハイパントをサントリーがキャッチ。
43分:ライリーのショートパント。流がキャッチしてキック
49分:野口のダイレクトタッチ
69分:内田のハイパントをバレットがキャッチ。バレットがランでカウンター
サントリーのキックは流とバレットがほとんど
こうしてみると、1つ際だった大きな違いがある。
サントリーのキックはそのほとんどがハーフバックスの流とバレット。2人で前進した10本中9本だ。後退したものを合わせても12本中11本だ。
一方パナソニックはスクラムハーフの内田が前進につながったキックを蹴れていない。内田が蹴ったハイパントは2本とも後退させられている。
パナソニックはCTBのハドレー・パークスのキックが多い
その代わり多いのは12番(インサイドセンター)のハドレー・パークスで4回。他は松田が3回、野口が3回(1回後退)、ライリーが2回(1回後退)、コーネルソン、福岡、山沢が1回ずつ。
逆にサントリーの12番の中村亮土のキックはリターンキックはあっても(8分)、前進につながったキックはない(ごく短いショートパントを蹴って自分でキャッチしてトライした35分のキックはカウントしていない)。
通常の試合では12番がテリトリーキックを蹴ることはほとんどない。普通はそれはスタンドオフかフルバックの役割だ。
けれどこの日のパナソニックは、パークスのキックが非常に良く機能していた。パークスがディフェンスラインの裏に蹴り、多くの場合それをキックディフェンスに回っていたバレットが抑える。
バレットは当然ランの選択肢もあるが、チェイサーがきっちり詰めているのでタッチに蹴り返す。タッチに蹴り返されれば今度はパナソニックボールのラインアウトになる。
そういう形でパークスのキックで陣地を稼ぐ形が、3回あったと言うことだ(51分はパークスのキックでマイボールラインアウトを取っているが、ターンオーバーからのキックだったのでやや形が異なる)。
この3回のうち、マイボールラインアウトからの流れでペナルティゴールを2本決めている。最終的に5点差だったことを考えると、非常に意味のあるキックだった。
12番のテリトリーキックの有効性
この12番パークスのキックがなぜ有効だったのか、戦術図で見てみよう。
(1枚目)
前述したとおり、通常はテリトリーキックはスタンドオフが蹴る。下の図の形だ。
ただ、スタンドオフは攻撃のタクトを振る役割で、ボールを受けたらキックだけでなくランやパスの選択肢もある。
なのであまりスタンドオフを狙ってタックルに行ってしまうと、上手くずらして躱されて裏に出られたりする危険もあるので、通常はそれほどディフェンスはスタンドオフに狙いを定めて上がってくることはない(そうすべき場合もある。典型的な例が大学選手権の早稲田大学)。
(2枚目)
この試合、やはりパナソニックのスタンドオフの松田力也は蹴らずにパークスにパスすることも多かった。
(3枚目)
通常、12番にパスが渡った場合、まっすぐ走ってディフェンスとクラッシュしてブレイクダウンを作り、2次攻撃、3次攻撃につなげていくことが多い。あるいは、そう見せかけてバックドアに走りこんでくるフルバックにパスする攻撃もある。
いずれにしても、12番までボールが回ればクラッシュか後ろへのパスが普通の選択肢だから、ディフェンスは強いタックルに入ったりバックドアに対応するためにラインスピードを上げる。
特にパナソニックを相手にする場合、ウイングが福岡だとボールを持たせると危険なので(図とは左右反対の状況だが)、12番、13番の段階でボールを抑えておかなければならないから、よりラインスピードを上げる必要が出てくる。
(4枚目)
ところがこの日のパナソニックの12番パークスは、まさにディフェンスがラインスピードを上げるタイミングを見計らって裏にキックを蹴った。
この段階になるとサントリーディフェンスはキックディフェンスに入れる態勢にない。ラインスピードを上げて自分がマークする選手にタックルに行こうとしているからだ。
そのため、キックディフェンスに入っているバレットないしフルバック尾崎にはサポートにもエスコートにも行けない。
一方、パナソニックはそのまままっすぐ前に走ってキックをチェイスすればそのままバレットにプレッシャーをかけられる。こうした状況では、キックを処理したバレットか尾崎はタッチに逃れるしかない。
勝敗を左右したパークスからのキック
そのあたりを非常によく考えて準備した、12番パークスからのキック攻撃だったと思われる。少なくとも自分の気づいた範囲では、これまでの試合でパークスからのキックが攻撃パターンだったことはないから、これはサントリー相手に特別に準備した攻撃だったのではなかろうか。
この形からトライは取れなかったものの、サントリーがタッチに逃れてからのマイボールラインアウトを起点とした攻撃からのペナルティゴールが2本、6点。最終的に5点差の試合だったことを考えると、勝敗を左右した攻撃オプションだったと間違いなく言える。
今回は「プレー解剖」をもう一回書きたいと思っている。次はサントリーのライン攻撃。
(続く)