テリトリーを取る力、トライを取る力:ラグビー大学選手権準々決勝 早稲田対慶応(12月19日 いまさらマッチレビュー)
12月19日に行われた2020年度の大学ラグビー準々決勝では、早慶の再戦があった。11月の対抗戦での対決では22-11で早稲田が勝利した。大学選手権でもう一度当たるというのは早慶明ではそれほど珍しいことではないのだが、一ヶ月程度の時間で同じ相手と戦うのはやりやすいのか、やりにくいのか。
いろいろあってこれも2週間遅れてしまったけれど、準決勝の前になんとか「いまさらマッチレビュー」を。(2021.1.1 13:30誤記修正、写真追加)
この日の結果は29-14(前半24-7)で早稲田が再び勝利。早稲田が5トライ、慶応が2トライ。
当日もった印象は二つ。第1は早稲田が縦の動きを上手く組み合わせて、外のスペースを素早く使ってトライを取ったこと。第2はお互いのキックディフェンスの立ち位置を見ながらキックをどこに落とすか瞬時に判断する、非常に高度なキックの駆け引きが行われたというもの。
早慶それぞれの得点機会
その前に、まずお互いが敵陣22mラインに進入した回数を見てみよう。マイボールをコントロールできていた回数でカウントしている。カッコ内はその結果。
(慶応)
17分(ラインアウトミスでボールロスト)
24分(トライ)
30分(スクラムのアーリープッシュでボールロスト)
42分(ラインアウトミスでボールロスト)
45分(ノット・リリース・ザ・ボールでボールロスト)
51分(トライ)
58分(PG外し)
(早稲田)
1分(トライ)
12分(トライ)
19分(トライ)
33分(トライ)
72分(トライ)
15点差がついた結果から見ると意外なことに、慶応の方が敵陣22mラインに進入した回数は多い。しかし7回の進入回数のうち、得点できたのはトライの2回のみで、後はボールロスト4回、PG外し一回。このうち、やはりラインアウトミスが痛い。ここでトライ+ゴール取れていれば1点差ということになり、全く違う試合展開になっていただろう。
早稲田のトライを取りきる力
一方、早稲田が敵陣22mラインへの進入回数5回のすべてでトライを取っているのは際立つ。こういう試合はめったに見ない。
このうち一回はスクラムから丸尾がサイドを突いて取ったもの。
一回は、伊藤大祐がターンオーバーから走りきったもの。
残りの3回は外のスペースをバックスで攻略したものだ。
実は前半の2つのトライ(右ウイング槇瑛人)は同じパターンだ。このうち19分のトライを戦術図を交えてみてみよう。
起点は吉村が自分で自分の蹴ったパントを競って、その後慶応がボールを捕ったがノット・リリース・ザ・ボールとなり、ペナルティをタッチに出した後のラインアウトから。
モールから右に2回フォワードで縦に突進。
それから吉村が左にロングパス。パスを受けたのは左ウイング古賀由教。
古賀が捕まってできたラックから右に展開。
以下写真を順を追って解説。
まずはフロントドアにデコイをおいて、バックドアでボールを受けた吉村が縦にラン。
タックルをずらしながら捕まってオフロードで7番村田に。
村田は難しいボールだったがキャッチ、ラック。
この時、フロントドアにはフォワード三枚。この3枚、特に外に立っていた8番丸尾に2人のマーカーが。この時ラインにいるのはバックスで、ミスマッチとなっているのでダブルタックルの体勢を作るのは自然なことではある。
その代わり、外側のマーカーが足りなくなっている。早稲田は3人。慶応は1人。完全に余った状況の中で、吉村フォワードをおとりに使ってバックドアにいる河瀬に。
この状況で、慶応のタックラーは一か八か13番を狙ってタックルに詰める。
これを確認した河瀬は、13番を飛ばして14番槇へ。
そして槇は完全に余った状態でトライを決めた。
33分のトライも同じパターンで、慶応のタックラーが詰めてきたところを飛ばしてライン際の槇瑛人につないだものだ。
後半72分のトライも似たような形。
11月23日の早慶戦で撮った最後のトライと形は似ている。
ということで、やはり「最後の10mでトライを取りきる力」の差が出たと言える。
慶応。テリトリーキックの熟練。
一方、慶応はどのような形で攻撃を組み立てのか。それはやはりテリトリーキックだった。
(慶応)
再確保:0
プレーエリア前進:10
後退:2
リターンキック:4
フェアキャッチ:2
チャージ:1
(早稲田)
再確保:1
プレーエリア前進:6
後退:1
リターンキック:5
こうしてみると、慶応のキック20回という多さが目を引く。さらにそのうちプレーエリア前進が10回で、50%前進している。これは、率と言うだけでなく、80分の間で10回前進しているということも重要な意味がある。一方早稲田も、13回キックを試み、再確保含めて53回プレーエリアを前進させている。両方とも半分でプレーエリアを前進させていることから見て、やはり両チームの間で高度なキックの駆け引きが展開された試合だったといえる。お互いにダイレクトで撮れない場所に何回も蹴り込んでいた。
慶応の場合、特に重要だったのは、率だけでなく数だろう。80分の間で10回前進できたことは大きい。それが22mラインへの進入回数で早稲田を上回ったことにつながっている。
2020年の2つの早慶戦。基本的には同じ展開だった。早稲田の取りきる力がさらに際立った再戦だった。ただ、慶応のこのテリトリーキックの熟練度は不気味だ。
もちろん、伝統のタックルも。
来年の慶応、相当に怖い存在になるのではないか。