見出し画像

王子について

第二志望の結果発表を明日に残すのみとなった私の受験人生。応援して見守ってくださった方々に大きな感謝を申し上げます。

さてあまりにも多くのものを得た私の浪人生活を語る上で欠かせない存在がある。ここでは王子という仮称で呼ぼうと思う(あとでアカウント貼るから意味ないけど)。


まず私は彼に尋常じゃない憧れを抱いていた。その根源は現役当初に遡る。

私が工芸科の授業に通い始めた時 王子はすでに一年早くそこにいて、立体(水粘土を使った制作)が得意であった。

今思えば水粘土なんて 慣れないと扱いが難しい素材であるから経験の差がバッチリ出るのは仕方ないのだが、始めたての私と一年の積み重ねのある王子とでは力の差があまりにつきすぎていて、当時の私は激しく嫉妬し なんとか追い落とそうと毎日彼の作品の出来を気にしながら制作をした。

(その気持ちの燃やし方があまり良くないことに最近になってやっと気づいたのだが、具体的な目標として掲げたほうが追いやすいという気持ちもわかる)



少し仲良くなると王子が折り紙を趣味にしていることを知った。(興味があれば、是非)

https://twitter.com/doi_gen?s=20

まるで見たことのない世界がそこに広がっていて私は驚愕した。好きな作家の作品を折るだけでなく、自ら考案し、創作した作品もあると言う。精度も密度も私の知っている折り紙ではない。かなりの衝撃を受けた。

自分のやりたいことがしっかりあって、かつ技術も持っている。それを磨くために大学に行く。当時の私の、なんとなくでさらに不純な志望動機と比べると とても筋の通った理由に思えて羨ましくて仕方がなかった。

それからちょくちょくコンクールなどで彼より低い順位に位置付けられるたび 悔しくて、でもその悔しい気持ちの根源を探るのがなんだか怖くて、ごまかしていた。(普段のざっくりしたランク分けとは違い コンクールは合格の大体の目安となる点数がつけられ、さらに一位から最下位まで順位が出されるのではっきりと勝ち負けが見えてしまう)

「尊敬」と言う気持ちを素直に抱くことができなかったのだ。まして同い年のこんなぼんやりした男になど。

王子はマジで勉強が苦手だった。字もヘタだし漢字も書けない。言ってることも普段は超テキトーだ。講師に作品のコンセプトを訊かれても「なんとなく」とか言うような人間なのだ。(出会って二年くらいは本当になにも考えてないのだとばかり思っていた)

そのことも手伝って、「私の方が頑張ってるのに!考えてるのに!!」と歯ぎしりばかりしていた。

今考えるときっと直感でできることのレベルがケタ違いに高かったのだと思うし、考えてない「風」というのが彼の美学であり作戦だったのかもしれない。いやまんまとやられたな。


そんな感じで私は対抗心を燃やし、王子はそれを何食わぬ顔でかわし、の毎日が過ぎていき 気づけば一緒に二浪していた。

私は私で技術は上がったし普段の授業も楽しんで制作できるようになった。その結果でそこそこ戦えるようにもなった。それこそ最初にブチのめされた立体では王子よりも良い評価がもらえることも少なくなくなってきた。


しかし評価されるようになったといっても根本の部分は現役当初からずっと変わらなかった。

ある講師が「芸大は大人にならないと入れない」と言っていたのを思い出した。その点で私の成長は技術のみにとどまっており、まだまだ「大人でない」のは分かっていた。

分かっていながら なかなか殻を破れず 、着実に階段を上っていく王子と 相変わらず波の激しい自分をまた比べては苦しんだ。

そんな二浪の入試前、王子と二人で話す機会があった。芸大一次の四、五日前だったと思う。

そこで初めて、彼の強さやすごいところを素直に認めて伝えることができた。

そこで初めて、ずっと感じていながら顔を背けていた悔しさと向き合うことができた。

言葉にして表に出すことでようやく頑なだった心が開かれた。

本当に貴重な時間だったと思う。二浪して彼のことを知らなければここまで来られなかった。



憧れて勝ちたくて出来なくて死ぬほど悔しくて憎んで愛して空回って許されて、やっとここまで来られた。彼には本当に感謝している。


全ての試験が終わったあと、メッセージのやり取りの中で「いけ子とは一生関わってる気がするわ」という言葉をもらった。王子が言うなら本当に「一生」なのだろう。

本気で苦しかったけど無二の親友を得られたこの生活にも感謝である。本気で苦しかったけどな!!!

彼にここまで引っ張り上げてもらったようにいつか私も何かで恩を返したい。それを人生の目標のひとつとして、これから成長していきたいと思う。


最後までまとまりのない文章にお付き合いいただきありがとうございました。








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?