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SNSに投稿する写真にも「うつ」の兆候が現れる? (論文紹介)

日本において、100人のうち約6人がかかると言われているうつ病。うつ病は日常生活にもよくない影響が与えることから、早期発見が重要といわれています。このようなうつ病は、医者に見てもらうことで発見できると言われていますが、ソーシャルメディアは医者の代替的な役割となり早期発見を実現できたりするのです。今回紹介するEPJ Data Scienceに採択された"Instagram photos reveal predictive markers of depression."という論文は、うつ病がInstagramの写真から推定できる可能性について分析したものとなっています。


うつ病が、患者の社会活動()や自己認識に強く影響を与えるのはよく知られています。例えば、うつ病の患者は他の人と比べて、周囲の環境をグレーや色彩が乏しいと認識する傾向があるそうです。「患者の周囲の捉え方の違いは、SNSにアップロードする写真などにも一定の影響があるのではないか?」このように論文の著者は考え、分析を行いました。一般開業医がうつ病患者を「うつ病」であると診断できるのは約42%と言われており、もし写真から判定可能である、もしくは、うつ病患者がSNSに上げる写真の傾向を理解できるならば、有用な知見となりそうです。

著者らは、分析するデータとして、Amazon Mechanical Turkというクラウドソーシングサービスを用いて166人のユーザ(そのうち71人がうつ病の既往歴あり)の情報と、彼らがInstagramにアップロードした13,184枚の写真を取得し、うつ病の推定に有用な特徴があるかどうかを分析しました。分析方法にロジスティック回帰を用いて、各特徴のオッズ比を示した結果が、下図となります。オッズ比が1以上の場合は、うつ病になりやすい特徴、一方で、オッズ比が1以下の場合はうつ病ではないユーザにおいて強い特徴となります。そして、左側が、うつ病という診断がなされた後に投稿された写真も学習データとして加えたモデル、右側が、うつ病という診断がなされる前の写真のみを学習データとして考慮したモデルとなっていますが、オッズ比が1以上もしくは1以下については似た傾向があるようです。

うつ病かどうかのオッズ比

上3つの特徴(Hue, Saturation, Brightness)は色彩や明度を表しており、この結果から、写真はより青っぽく(Hue)、より暗く(Saturation)、より灰色(Brightness)であるほどうつ病である傾向であることがわかります。また、投稿についてくるメタデータ(Comments, Likes, Posts/day)については、コメントが多いほど、うつ病が投稿している可能性が高かったが、「いいね!」の獲得数ではその逆の傾向でした。最後に、顔認識モデルを用いて人の顔の効果を調査したところ、うつ病であることは顔のある写真を投稿する傾向が強い(Face presence)一方で、写真1枚あたりの平均の顔の数は少ないという傾向があらわれました(Face count)。


さらに著者らは、うつ病とそれ以外の人が写真のフィルターに異なる傾向があるかを分析したところ、顕著な結果がでました。うつ病の参加者は他の人よりもフィルターを利用しない傾向が強かったのですが、利用したフィルターのうちカラー写真を白黒写真に変換する「Inkwell」のフィルターをより利用していました。一方で、うつ病でない参加者は写真の色合いを明るくする「Valencia」フィルターを利用しており、色彩感覚に大きな違いがあることがわかったのです。

このような分析によって、うつ病と投稿する写真の傾向には強い相関があり、うつ病患者かどうかを判定することにも有用であることが示されたのです。筆者らは、上記の分析以外にも、写真からうつ病かどうかを判定するモデルが、通常の診察よりも精度が高い結果になることを論文中に示しており、SNSがソーシャルセンサーとなって人々の健康を測定する指標となる可能性について提示したのです。

Reece, Andrew G., and Christopher M. Danforth. "Instagram photos reveal predictive markers of depression." EPJ Data Science 6.1 (2017): 15.
URL: https://epjdatascience.springeropen.com/articles/10.1140/epjds/s13688-017-0110-z


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