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アーティストの最初のステップはキャリアにおいて重要(論文紹介)

芸術の価値というのはかなり難しいものです。「黄金の兜を持つ男」という作品があるのですが、これはレンブラントという「光の画家」と呼ばれ光と影を使った技法を得意とした17世紀の芸術家によって作成されたと言われています。しかしながら、1980年代にこの絵がレンブラントの作品ではないことが判明すると、作品そのものは変わっていないにもかかわらず、その芸術的・経済的価値は大きく失ってしまったのです。このように芸術の認知度というのは、芸術の価値を決定する重要な要素だと言われています。
現代の芸術家の評価の1つとして「どこで作品が公開されたか?」というのは重要な基準となっています。芸術家のキャリアを考えた場合、作品を公開する美術館はどれくらい重要なのだろうか?この問いに対しScienceに採択された"Quantifying reputation and success in art"では取り組んでいます。

黄金の兜を持つ男

彼らはMagnusによって収集された、143カ国、36年間(1980年から2016年)における、16,002のギャラリーにおける497,796の展覧会、7,568の美術館における289,677の展示、1239のオークションハウスにおける127,208のオークションに関する情報が含まれたデータセットでアーティストの経歴を調査しました。

このデータを用いて、美術館がノードとして、芸術品の交換を行ったかどうかでエッジを引いたグラフを作成すると以下の図のようになります。この結果を見てみると、MoMAなどが大きい存在感を示していることや、地域コミュニティ(ヨーロッパ、アジア、南米、オーストラリア)は、中心部から比較的離れており、彼らの中で作品をお互いに共有しあっていることがわかります。

論文中のFigure1

彼らはさらに、アーティストの初期キャリアが最終キャリアにどのような影響を与えるのかについて調査しました。まず、登録されたアーティストを、キャリア初期の展示場所の平均名声(ネットワークランク)に基づいてグループ化しました。上位20%の展示場所で作品が展示されたアーティストを初期評価が高いグループ、そして下位40%の展示場所で作品が展示された人たちを初期評価の低いグループと分類したのです。彼らの10年後はどのようになったのでしょうか?

10年後には、初期評価の高いアーティストのうち39%が展示を続けていた一方で、初期評価の低いアーティストは14%しか活動を続けていませんでした。

論文中のFigure 2 (d)

また、活動を続けてたアーティストに絞ってみても、初期評価の高いアーティストの58.6%は高評価の展示場所で展示しており、下位の展示場所に展示することになったのはたったの0.4%でした。一方で、初期評価の低いアーティストはたったの10.2%しか高評価の展示場所で展示することができなかったのです。

論文中のFigure 2 (f)

このように、展示場所とアーティストの関係におけるロックイン効果は評価の高いアーティストに見られたのです。展示の回数や外国での展示回数、そしてオークションにおける作品の値段も初期評価の高いアーティストの方が後ほどでも高く評価されるという傾向が見られたのです。

大規模データを分析・調査することで、アーティストの作品の価値が初期キャリアで決まってしまうという階層構造の存在が示唆されました。著者らは、これらの階層構造を緩和するためにも、多くのアーティストが高い評価の展示場所にアクセスできる方法を確立すること訴えています。

Fraiberger, S. P., Sinatra, R., Resch, M., Riedl, C., & Barabási, A. L. (2018). Quantifying reputation and success in art. Science, 362(6416), 825-829.
https://www.science.org/doi/10.1126/science.aau7224

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