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私達の読んでいるニュースは偏っているのか?(論文紹介)

人々はどのようにニュースをソーシャルメディアを通じて消費しているのだろうか?これについて、PNASに採択された"Anatomy of news consumption on Facebook"という論文で、Facebookにおける2010年1月から2015年12月までの6年間における3億7600万人のユーザのニュース消費という大規模なデータを分析を行い取り組みました。

ユーザのニュース消費の傾向について

ユーザの性質と消費しているニュースの種類の関係について調査しました。興味深いことに、ソーシャルメディアの利用期間が伸びるにつれ、また、「いいね!」の数が増えるにつれて、ユーザの見ているフェイスブックページの種類が少なることがわかりました。つまり、ソーシャルメディアに活発的なユーザは限られたページばかりアクセスするという傾向が見られたのです。この結果に基づいて、ユーザの行動に基づいてニュース記事を5つのクラスタに分類し、ユーザがどのようなニュース消費を行っているかを可視化しました。

これが可視化の結果となります。左図が、実際のユーザがどのニュースクラスタの記事を消費する傾向にあるのかを、5つのクラスタからの距離で表現したもので、右図は各ユーザがランダムにニュースを消費した場合の配置を可視化したものです。この結果から、多くのユーザはランダムにニュースを消費するのではなく、クラスタ分類された5つのクラスのどれかに属するニュースばかり消費する、偏ったニュース消費を行っていることがわかります。

地理的関係とニュース消費

更に、ユーザが「いいね!」に基づいたネットワークと、ページ(ニュース提供者)の「いいね!」に基づいたネットワークが地理的関係と比べどのように拡散しているのかについて調査しています。コミュニティ検出アルゴリズムを用いてこれらのグラフからコミュニティ検出を行った結果、ユーザよりもページに基づいたコミュニティの方が地理的に局所的なコミュニティばかり検出される、つまり、ユーザはニュース提供者よりも地理的制約に縛られずにニュースを消費していることがわかりました。

ユーザのニュース消費モデル

論文では、ユーザがニュース消費することでコミュニティに偏ることを説明する、簡単なモデルを提供しています。このモデルは、人々の議論の合意形成などの説明に頻繁に用いられるOpinion dynamicsのモデルBounded Confidence Modelに基づいたものです。

このモデルでは、各ユーザはそれぞれ0-1の数値で表現するOpinionを持っており、同時に、各ニュース記事も党派性などの0-1で表現するOpinionを持っています。もし、あるユーザが自分のOpinionに近いニュース記事を読んだ場合、「いいね!」という行為を行い、自身の意見の状態も記事の意見に近づく状態に更新されます。このモデルを用いることで、ニュース記事がそれぞれ少ないクラスタ数に分割されるという現象をシミュレーションできます。

この図では、どの程度ユーザの意見とニュース記事の意見が近ければ「いいね!」という行為を行うかのパラメータ(Δ)に基づいて、コミュニティ数やコミュニティサイズがどのように変動していくかを示したものです。ユーザの意見とニュースの記事の意見が全く一緒でなければ、「いいね!」しない状態(Δがものすごく小さい)であれば、コミュニティは多種多様になる一方で、ユーザの意見とニュースの記事の意見がある程度離れていても「いいね!」をする場合(Δが0.1程度)コミュニティ数は2以上の少ない数に分割され分極化を引き起こすことがわかります。

ここまでまとめると、ユーザは限られたニュースに集中し、クラスタ分類してみると明確なコミュニティ構造とユーザーそれぞれが強い偏向的なニュース消費を行っていることがわかりました。また、ユーザとニュースドメインの好みは異なっており、ニュース間の「いいね!」によって形成されるコミュニティは、ユーザ間のものよりも地域的に限定されていることが示されました。

多くのユーザが一部のサイトに限定してアクセスするという傾向は様々な問題を引き起こします。例えば、一部のユーザはフェイクニュースばかりのニュースばっかり消費してしまうなどの現象が起こってしまいます。このような現状を捉えることで、将来の問題を解決するための手がかりになるかもしれません。

Schmidt, A. L., Zollo, F., Del Vicario, M., Bessi, A., Scala, A., Caldarelli, G., ... & Quattrociocchi, W. (2017). Anatomy of news consumption on Facebook. Proceedings of the National Academy of Sciences, 114(12), 3035-3039.
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1617052114

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