WSMR #0-1 私達のニュース摂取は偏ってるのだろうか?


今週のコラム:「私達のニュース摂取は偏っているのだろうか?」

私達はなぜニュースに「いいね!」や「共有」をするのでしょうか。多くの研究者は人々のニュースに対する行動について、自分の意見の近いニュースを読んだりすると共感し「いいね!」や「共有」すると考えています。当たり前ですよね。自分の好みの合わないもしくは意見が合わないニュースに対して、わざわざ「いいね!」を押す人はなかなか酔狂な方です。

この私達が頻繁におこなっている「いいね!」の行動から、ソーシャルメディア上における私達のニュース消費を見てみると面白いことが見えてきます。シュミットらは、5年間のFacebookにおける3億7600万人のニュース投稿に対する「いいね!」やコメントという大規模なデータを分析しました。

その結果、ソーシャルメディアを長く利用している人や、活発に活動している人ほど、触れるニュースの種類が少なくなるということがわかったのです。つまり、多くのソーシャルメディアユーザは自分の意見に近いニュースばかり消費し「いいね!」するため、偏ったニュースばかり摂取していることが大規模データから明らかになったのです。

彼らの大規模調査は、ユーザのニュース消費の傾向だけでなく、ニュース配信サイトのコミュニティと地理的な関係についても面白い洞察を提供してくれています。このような大規模調査は、私達が「なんとなく考えている」ことをデータとともに示してくれる、重要な機会となっています。実際、私達が普段、無意識に行っているニュース消費が幅広く行われているわけではなく、一部の似たようなサイトばかりであるということが今回明らかになったのです。このような傾向があることを認識してニュースを消費していくことが、偏った情報に惑わされないコツなのかもしれません。

参考: Schmidt, Ana Lucía, et al. "Anatomy of news consumption on Facebook." Proceedings of the National Academy of Sciences 114.12 (2017): 3035-3039


今週のソーシャルメディアニュース・気になった論文

Twitter APIに関して

イーロン・マスクによるTwitter買収以後、様々な騒動が起こっていますが最近、計算社会科学者にとって衝撃のニュースがやってきました。Twitter APIが有償化するというものです。Twitter APiは無料でTwitterデータを気軽に収集できるという点から長年重宝されてき多くの研究で活用されてきました。しかしながら、2月2日にTwitter APIが新たなものになるというニュースが舞い込んできました。

当初は2月9日からTwitter APIの廃止となることが報告されていましたが、2月14日現在、未だにTwitter APIの有料化は始まっていません。

Twitter APIの代替となる「Ads API」は月額100ドルで提供される予定だそうです。今回の件で、特に残念なのは、2021年に始まったAcademic Research Accessまで有料化される予定である件です。Academic Research Accessは月1000万Tweetまでなら無料で、しかもTwitterが始まった2006年からのアクセスが許されていた非常に良いアクセス権でした。この件は多くのTwitter研究者に衝撃を与えているようです。


女性嫌い「Incel」グループはどんどん過激になってきている

アメリカでは、女性に対して嫌悪・憎悪を抱くコミュニティとして「Incel」("in"voluntarily "cel"ibateの略)が社会問題となっています。このIncelコミュニティはRedditのスレッドや掲示板などで活動しており、時たまその活動の場がSNSの運営によって閉鎖されることがあります。この研究では、このようなIncelコミュニティの場が閉鎖され新たな空間が作られるたびに、利用される言語が過激になってることを示しているのです。コミュニティの場の閉鎖は過激さを増長させるという結果は、今後のコミュニティ運営の方向性に一石投じそうですね。

A Diachronic Cross-Platforms Analysis of Violent Extremist Language in the Incel Online Ecosystem
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/09546553.2022.2161373

未来のタンパク源「昆虫食」は受け入れられるのか。SNSからグローバルに認識を調査。

昆虫食が世界の食糧問題を解決する一つの手段として注目されていますが、人々はどのように考えているのでしょうか?これについて
昆虫食の伝統がある国(メキシコと中国)と昆虫食の伝統がない国(ベルギー、イタリア、米国)の5つの国でオンライン調査を行った研究が公開されました。調査の結果、昆虫食の伝統がある国は伝統がない国と比較して、食事にミルワームを取り入れることを高く受け入れてることが示されました。また、昆虫食の伝統がない国であっても若年層では、加工されたミルワームを食事に取り入れることに前向きであることが示されました。この結果は、今後の昆虫食の導入におけるターゲット選択に役に立ちそうです。

Consumers’ acceptance toward whole and processed mealworms: A cross-country study in Belgium, China, Italy, Mexico, and the US
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0279530

多くの人にとって「安全な言論空間」>「言論の自由」?しかし共和党員はモデレーションに消極的。

言論の自由、そして誤報や有毒な発言の削除、この2つの価値感はしばしば対立します。この価値観の対立について人々はどのように考えているのでしょうか?この論文では、米国での調査を通じて、有害な発言に関するコンテンツやアカウント削除に対してどのように考えているのかなどの、道徳的ジレンマについて調査を行いました。調査の結果、多くの回答者は言論の自由を守ることよりも、有害なコンテンツを削除することを優先するという結果が得られました。この判断には党派性も影響しており、米国における共和党員は民主党員や無党派層よりも、投稿の削除やアカウントの制限を行うことに対して消極的な傾向もみられたそうです。このような調査は、今後のモデレーションのルールづくりに役に立ちそうです。

Resolving content moderation dilemmas between free speech and harmful misinformation
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2210666120

「AI専門家」のパブリックイメージは?142本の映画から調査

映画は人々の興味・関心、更には想像力などを掻き立てる最高のエンターテイメントの1つです。その映画では、どのようにキャラクターがえがかれるのでしょうか?この研究では、映画の中でも特に「AI研究者」と「ジェンダーバイアス」という2つの観点について着目しました。1920年から2020年までの142本のAI専門家が出てくる映画のうち、なんと、たったの8%しか女性の研究者が描かれてなかったのです。このような、ステレオタイプのイメージを植え付けてしまうエンターテイメントの危険性について考えることに有用な一本となっています。

Who Makes AI? Gender and Portrayals of AI Scientists in Popular Film 1920-2020
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/09636625231153985


今週の論文紹介

Schmidt, Ana Lucía, et al. "Anatomy of news consumption on Facebook." Proceedings of the National Academy of Sciences 114.12 (2017): 3035-3039

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1617052114

人々はどのようにニュースをソーシャルメディアを通じて消費しているのだろうか?これについて、Facebookにおける2010年1月から2015年12月までの6年間における3億7600万人のユーザのニュース消費という大規模なデータを分析を行いました。

・ユーザのニュース消費の傾向について

ユーザの性質と消費しているニュースの種類の関係について調査しました。興味深いことに、ソーシャルメディアの利用期間が伸びるにつれ、また、「いいね!」の数が増えるにつれて、ユーザの見ているフェイスブックページの種類が少なることがわかりました。つまり、ソーシャルメディアに活発的なユーザは限られたページばかりアクセスするという傾向が見られたのです。

この結果に基づいて、ユーザの行動に基づいてニュース記事を5つのクラスタに分類し、ユーザがどのようなニュース消費を行っているかを可視化しました。

これが可視化の結果となります。左図が、実際のユーザがどのニュースクラスタの記事を消費する傾向にあるのかを、5つのクラスタからの距離で表現したもので、右図は各ユーザがランダムにニュースを消費した場合の配置を可視化したものです。この結果から、多くのユーザはランダムにニュースを消費するのではなく、クラスタ分類された5つのクラスのどれかに属するニュースばかり消費する、偏ったニュース消費を行っていることがわかります。

・地理的関係とニュース消費

更に、ユーザが「いいね!」に基づいたネットワークと、ページ(ニュース提供者)の「いいね!」に基づいたネットワークが地理的関係と比べどのように拡散しているのかについて調査しています。コミュニティ検出アルゴリズムを用いてこれらのグラフからコミュニティ検出を行った結果、ユーザよりもページに基づいたコミュニティの方が地理的に局所的なコミュニティばかり検出される、つまり、ユーザはニュース提供者よりも地理的制約に縛られずにニュースを消費していることがわかりました。


・ユーザのニュース消費モデル

論文では、ユーザがニュース消費することでコミュニティに偏ることを説明する、簡単なモデルを提供しています。このモデルは、人々の議論の合意形成などの説明に頻繁に用いられるOpinion dynamicsのモデルBounded Confidence Modelに基づいたものです。

このモデルでは、各ユーザはそれぞれ0-1の数値で表現するOpinionを持っており、同時に、各ニュース記事も党派性などの0-1で表現するOpinionを持っています。もし、あるユーザが自分のOpinionに近いニュース記事を読んだ場合、「いいね!」という行為を行い、自身の意見の状態も記事の意見に近づく状態に更新されます。このモデルを用いることで、ニュース記事がそれぞれ少ないクラスタ数に分割されるという現象をシミュレーションできます。

この図では、どの程度ユーザの意見とニュース記事の意見が近ければ「いいね!」という行為を行うかのパラメータ(Δ)に基づいて、コミュニティ数やコミュニティサイズがどのように変動していくかを示したものです。ユーザの意見とニュースの記事の意見が全く一緒でなければ、「いいね!」しない状態(Δがものすごく小さい)であれば、コミュニティは多種多様になる一方で、ユーザの意見とニュースの記事の意見がある程度離れていても「いいね!」をする場合(Δが0.1程度)コミュニティ数は2以上の少ない数に分割され分極化を引き起こすことがわかります。

ここまでまとめると、ユーザは限られたニュースに集中し、クラスタ分類してみると明確なコミュニティ構造とユーザーそれぞれが強い偏向的なニュース消費を行っていることがわかりました。また、ユーザとニュースドメインの好みは異なっており、ニュース間の「いいね!」によって形成されるコミュニティは、ユーザ間のものよりも地域的に限定されていることが示されました。

多くのユーザが一部のサイトに限定してアクセスするという傾向は様々な問題を引き起こします。例えば、一部のユーザはフェイクニュースばかりのニュースばっかり消費してしまうなどの現象が起こってしまいます。このような現状を捉えることで、将来の問題を解決するための手がかりになるかもしれません。


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