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そんなに「心配」ばっかしていられない!(論文紹介)

私達は、世の中のこと、家族のこと、友達のこと、様々なことに対して「心配」をしてしまうことがあります。最近だと、COVID-19騒動は「感染しないだろうか?」「ワクチンに副作用は無いのだろうか?」「客が減らないのだろうか?」など様々な心配を抱かせました。長く生きていると、このような心配事ばかり増えて、頭の中は心配ばっかりになってしまうのでしょうか?

これに対して、心理学の分野では、私達が心配するという感情は有限であり、ある新しい物事に対して心配するようになると他の物事について心配は減少するという"Finite pool of worry"仮説というものが提唱されています。この仮説は本当に存在するのでしょうか?Proceedings of the National Academy of Sciencesに採択された"COVID-19, climate change, and the finite pool of worry in 2019 to 2021 Twitter discussions."では、COVID-19が発生したことによって気候変動に関する心配が減少したかどうかについて、Twitterのデータを用いて検証しています。

彼らは、分析対象のデータとして、アメリカにおける「気候変動」に関する投稿をTwitter上から収集し、COVID-19による騒動によってどのような変化があったのか、COVID-19の患者数の増加などの関係はどのようなものかについて調査しました。単純に投稿数だけを見てみたところ、アメリカにおけるハリケーンや地震などの気候変動イベントはそこまで変化していないにも関わらず、2019年には気候変動に関する投稿は800万件ほどありましたが、2020年には560万件に、2021年には530万件と減少しているようです。

2020年から2021年にかけてのTwitterでの気候変動に関する議論が減少していることが伺えますが、これはCOVID-19とどのような関係があるのでしょうか?彼らはCOVID-19の死者数/患者数に応じて、気候変動に関する投稿の増減の程度を明らかにする回帰分析を用いて調査しました。この回帰分析では、1: メディアによる気候変動の記事、2:米国大統領選挙、3:大統領・副大統領の討論、4:米国における山火事やハリケーンなどのイベント、5:曜日変数を他の影響変数として考慮しました。その結果、米国でのCOVID-19が1,000件発生するとごに1日あたりの気候変動のツイートは約40.5件減少し、また、COVID-19で1,000人死亡するごとに、ツイートが約3,308件減少したているということがわかったのです。どうも、COVID-19による心配が、気候変動に関する心配を減少させている可能性が示唆された結果となりました。

私達の気候変動に関するツイートに現れる「感情」は、COVID-19のパンデミックによってどのような影響が与えられたのでしょうか?彼らはVADERやNRC Lexという感情判定ツールを用いて、気候変動に関する投稿に含まれる感情を推定しCOVID-19との関係を回帰分析によって調査しました。
まず、Positive or Negativeな投稿という観点についてですが、パンデミックによって気候変動の投稿の中のNegativeな感情は減少し、Positiveな感情が増加したことが示されました。

論文におけるFigure1から抜粋

また個別の感情を見てみても、COVID-19の患者数/死亡数が多いほど、・恐怖や怒り、驚きなどの感情が低く、Trustや喜びの感情が高くなることがわかってきました。

論文におけるFigure2から抜粋

このことから、COVID-19パンデミックは気候変動の恐れを小さくさせ、Trustの感情を増加させることがわかります。

まとめると、COVID-19パンデミックはTwitter上の気候変動の投稿数や恐怖の感情の減少に関係があり、"Finite pool of worry"仮説を強く支持するという結果となったのです。

Smirnov, Oleg, and Pei-Hsun Hsieh. "COVID-19, climate change, and the finite pool of worry in 2019 to 2021 Twitter discussions." Proceedings of the National Academy of Sciences 119.43 (2022): e2210988119.
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2210988119

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