新しいエコシステムを切り拓く:HAKOBUNEが非参加型優先株を選ぶ理由

こんにちは。HAKOBUNE共同代表の木村です。

このたび、HAKOBUNEではこれから起業を目指す若者や社会人が短期間で飛躍的に成長できるインキュベーションプログラム「HAKOBUNE STARTUP CONTEST」の3rd Batchの募集を開始しました。3回目の開催となる今回は、総額500万円の賞金を用意しての特別回となります。

一塁打しか狙わないということで存在意義が危ぶまれている日本のVCですが、HAKOBUNEは、優れた起業家の挑戦と、日本のスタートアップエコシステムの推進に貢献することを目指しています。最近、XなどのSNSで、「参加型はありえない」、「利益の二重取りで時代遅れ」、「"dirty"な投資条件」といった優先株の参加型・非参加型に関する議論がにわかに活発になっているのを目にしました。この記事では、この議論についてHAKOBUNEの考えを示したいと思います。


優先株式の参加型・非参加型とは

まず、参加型と非参加型の優先株式の違いを説明します。

参加型では、M&Aなどで会社が売却された場合、まずは優先株主が投資額分を受け取ります。その後、まだ売却対価が残っていれば、優先株主も含めた全株主が持分比率に応じて追加の分配を受けます。
非参加型は、こちらもまず優先株主が投資額分を受け取る点は同じです。しかし、追加の分配がある場合、優先株主は分配には参加せず、残りは普通株主が残りを受け取る、ということに一見なりそうですが、それは間違いです。

「優先株 参加型 非参加型」で検索すると、多くの記事が見つかりますが、非参加型について正確に解説しているのは、唯一磯崎先生の記事だけでした。検索で出てくる優先株についての記事だけでは、非参加型について正しく理解することはできないので気をつけましょう。

調達時valuation未満での分配の話をしている

優先株式が参加型か非参加型かによって影響が生じるのは、会社がM&Aで売却される場合です。IPOの場合、基本的にはすべての優先株式が上場時に普通株に転換されるため、参加型・非参加型の区別は起業家側にも投資家側にも影響しません。
では、参加型・非参加型が影響するのはどのようなケースでしょうか。それは調達時のvaluationを下回る評価額で、M&Aなどで会社を売却する場合です。臨場感も出せるので具体例を挙げて説明します。

仮に、あるスタートアップが非参加型の優先株式で155百万円の調達を行い、そのときのPost-money valuationは815百万円だったとします。

調達はこの1回のみで19%放出したというシンプル化されたこのケースでは、調達金額である155百万円まではVCに先に分配が行われますが、そこから調達時valuationの815百万円までの区間ではVCへの追加の分配は行われません。これが非参加型の分配です。

非参加型でのFounderとVCの分配金額

一方、参加型の場合、VCは155百万円を受け取った後でも、追加の分配が行われる際に、普通株主と同様に持分比率に応じた分配を受けることができます。

参加型でのFounderとVCの分配金額

M&Aによる売却評価額によって、参加型と非参加型で分配額にどの程度の差が出るのでしょうか。今回想定したシンプル化されたケースでは、非参加型にするとFounderは125百万円多く分配を受け、VCはその分だけ分配が少なくなります。つまり、参加型・非参加型の議論は、この調達時valuationの815百万円を下回る区間での125百万円をどちらに分配するかという議論ということです。

VCのリターンはべき乗則に従う

このケースでの追加で得られる125百万円は決して小さな数字なわけではないですが、VCのファンドパフォーマンス全体に与える影響としては、それほど大きくないと考えています。なぜなら、VCのリターンはよく言われるようにべき乗則に従うからです。つまり、VCの投資モデルでは、数多くの投資先のうち、1社か2社が爆発的なリターンを生むことで全体のパフォーマンスが決まる仕組みになっています。このべき乗則についての説明はいろいろありますが、Founders Fundのピーター・ティールの言葉が印象的なので、それを引用します。

僕たちの運用するファウンダーズ・ファンドの結果を見れば、この偏りがよくわかる。2005年に組成したファンド中、最良の投資となったフェイスブックは、ほかのすべての案件の合計よりも多くのリターンをもたらした。その次に成功したパランティアへの投資は、フェイスブック以外のすべての案件の合計を超えるリターンを生んだ。 この極めて偏ったパターンは、決して珍しいことじゃない。僕たちのすべてのファンドに同じパターンが見られる。ベンチャー・キャピタルにとっての何よりも大きな隠れた真実は、ファンド中最も成功した投資案件のリターンが、その他のすべての案件の合計リターンに匹敵するか、それを超えることだ。

「ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか」ピーター・ティール 著より

ここまでを踏まえると、VCが参加型で投資することの合理性は薄いということにも理解いただけるのではないかと思います。

エコシステムの形成に寄与することを目指す

一方で、Founderにとっての追加の125百万円は非常に大きな意味を持ちます。IPOで華々しい成功を収めたわけではないものの、困難な局面や重要な判断を経て実行されたM&Aにおいて、この125百万円が得られるかどうかは、起業家にとっては非常に大きな違いを生むはずです。特に、再度起業を目指すシリアルアントレプレナーにとって、この資金は次の挑戦への大きな支えになります。シードラウンドを調達せずとも、2~3回の打席に立つ機会が得られ、その中から将来の大きなリターンを生む事業を生み出せる可能性もあります。そのため、VCにとって参加型の合理性が薄い一方で、起業家にとっては非参加型で得られる追加資金が大きな価値をもたらすことが考えられます。

また、正しいかどうかは別として、「参加型は悪」という風潮が広がりつつある現状では、参加型での投資が起業家に好意的に受け取られることは難しくなっています。これにより、VCが参加型で投資を行うことで、結果的に起業家からの評価を下げてしまうリスクが生じます。

VCにとって、継続的によい投資先を見つけ、成長させることが最も重要な使命です。その観点から考えても、起業家からの信頼や評価を損なう可能性がある参加型での投資は、現状では合理的とは言えない気がします。

実は非参加型で投資してました

HAKOBUNEはプレシードやシードステージでの投資を主に行っており、初回投資ではJ-KISSを活用することが多いです。J-KISSは、将来的に優先株式での調達と転換を前提とした仕組みであり、次の資金調達ラウンドで優先株式に転換されることが想定されています。

実際に、HAKOBUNEの投資先でも優先株式による適格資金調達を行うケースが生まれてきていますが、基本的に非参加型の優先株式を採用しています。例えば、昨年フリークアウト・ホールディングス様からの資金調達を行ったKEENは、その一例です。また、ステルスモードのため公表はしていませんが、別の投資先でも非参加型の優先株式を設計し、リード投資家として投資を実行した事例もあります。

このように、HAKOBUNEの投資先ではJ-KISSからの転換を含め、基本的に非参加型優先株式を活用する方針を取っています。

これからのスタートアップエコシステムを一緒につくっていきませんか?

ここまでご覧いただき、ありがとうございました。

HAKOBUNEは次の時代のアタリマエとなるような、エポックメイキングなサービス、そしてそれを生み出すような「組織の異端児、はみ出しもの」の起業家に投資していきたいと考えています。こうしたミッションや、今回説明した非参加型優先株式の活用を通じて、スタートアップエコシステムを推進するという私たちのスタンスに共感いただける方の力が必要です。

私たちは一塁打を狙うのではなく、日本からホームラン級のスタートアップを輩出することを目指しています。そのためにはもちろんさまざまな要素が必要ですが、起業家が次のチャレンジをしやすくするためにも、非参加型優先株式の活用がその一つだと考えています。

HAKOBUNEでは、創業初期のメンバーとして、さまざまなフィールドで活躍できる機会が豊富にあります。少しでも興味を持っていただけた方は、カジュアル面談含めぜひお話しましょう。ご連絡いただけるとありがたいです!