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チームラボ「電動車いす入場ご遠慮」の謎

追記
 2019.2.17現在、ボーダレスお台場Webサイトより「耐荷重の兼ね合いから電動車椅子でのご入場はご遠慮いただいております。」の文言が削除されていることを確認いたしました。お読み頂く際はその点ご留意ください。

お台場へ所用があり「帰りに時間取れたらチームラボのアレへ行ってみるか」と調べていたところ僕は入場をお断りされる可能性があることを知った。

謎多きチームラボ ボーダレスお台場

 今回行こうとしたのはメディアート作品を作るチームラボがお台場に建造したスペース「ボーダレスお台場」である。森ビル、EPSONとタッグを組み、各分野の錚々たる企業も出資している。まさにお台場の新アートスポットといえる。

作品の大きなテーマは「境界のない一つの世界」である。

車椅子の入場には制限がある
そんなスポットであるが実は車椅子の入場には制限があるらしい。
Webサイトによると以下の3点がある

車椅子をご利用のお客様は、作品特性上アスレチックエリアにはご入場いただけません。
車椅子でのご入場は可能ですが、安全管理上ボーダレスワールドのみのご体験となります。(ボーダレスワールド内でも一部作品はご体験いただけません)
 また耐荷重の兼ね合いから電動車椅子でのご入場はご遠慮いただいております。

作品の特性上の制限
 うえ2つはほぼ同義で、簡単に言えば「段差や柔らかい床のエリアとかあるし機能上1つのエリアしか見れません」ということだろう。「他の鑑賞手段も作れないの?」というツッコミはあるものの分からなくもない。僕は失望したけど、批判を受けるリスクを背負って特定の見せ方をしたい場合だってあるのだ。
 僕は少なからず 失望したけどね。

耐荷重による入場のご遠慮
 気になるのは3点目の「耐荷重の兼ね合いから電動車椅子でのご入場はご遠慮いただいております。」という文言だ。
 正直に言えば「おいおいマジかよ」という驚きだ。こうした言い回しによる制限は聞いたことがない。まして入場をご遠慮願われるのだから作品にとって相当リスキーなのかもしれない。僕は美術館でチームラボの作品を見たことがあるのだが、ボーダレスお台場ではよりリスキーでピーキーな設定の機材や床材なのかもしれない。

耐荷重による入場制限を勝手に検証する

 さっと読めばなんとなく納得してしまいそうだが、電動車いすの特性を知っている身としては腑に落ちない点が多い。問い合わせてみたいところだが、それは面白くないので「電動車いすの入場でリスクになる床ってどんな床なのか?」をテーマに勝手な検証をする。

仮説1:重量に耐えられない説

 まず考えられるのは車椅子の重量に耐えられない床を作品に使用している可能性である。
 一般的に「電動車いすは重い」というイメージをお持ちのみなさんも多いと思うので、解説しておくと自分の乗っているヤマハの簡易電動が車椅子込みでおおよそ50kg、自動車バッテリーを使った乙武某氏が使用しているような電動車いすが80kg〜100kg程度の重量だ。
 つまり搭乗員と合わせた総重量は重いもので150kg前後、多く見積もって200kgといったところだろう。

重さを占有面積あたりで考えてみる
「200kg?やっぱ重いじゃないか!」という人もいるかも知れない。
だがよく考えてほしい、車椅子(特に大型)の場合、占める床の面積は1.5平方メートル程度にはなる。1.5㎡といえば畳一枚程度である。混雑時なら大人であっても2,3人は収まってしまっているのではないだろうか?
 仮に70kgの大人が近くに3人居合わせてしまったらリスクが高まる床なのだとすると、通常営業でもかなりリスキーなはずだ。ノリでヲタ芸やモッシュを披露された日には惨状が待っていることだろう。

横綱白鵬は奥さんと離れて鑑賞しないとだめ?
 重量耐えられない説を通すとすれば、横綱白鵬(155kgもあるらしい!)が奥さんと歩くのも200kg近くに達するため絶対に危ない。鑑賞するときは離れておいたほうが良いかもしれない。
 横綱とまでいかずともインバウンドを狙う施設なだけに、大柄な外国人がカップルでやってきて自撮りをするだけでも同様にリスキーに思える。
この説は可能性としてなくはない(白鵬夫妻が入場を断られているところは想像できないが、、)が説得力に欠ける。

仮説2:圧力が耐えられない説

 次に考えたのは圧力だ。何かしら圧力がかかると割れたり凹んだりする素材だったりする可能性はある。
圧力はN/㎡で表す(調べた)、平たく言えば「面積にかかる力」である。重要なのは地面にかかる重量と接地面積だ。

車椅子のタイヤ1個にかかる重量は女性程度
 車椅子はタイヤ4点で地面に接する。多少の差こそあれ力は分散される。総重量200kgならそれを4つの面で圧力を分散する。仮に1点の接地する面積が健常者の片足と同程度だとしたら、タイヤ1つにかかる圧力は50kgの人間が片足立ちした程度という計算である。
 50kgといえば女性の体重程度だ。その圧力で危険なリスクをはらむ床だとすれば、女性が片足を上げて映画のようなキスをした瞬間にリスクが発生し、片足けんけんやバレエ風のジャンプをしたらハチャメチャに危ない床材である可能性がある。何それこわい、、。

セリーナ・ウィリアムズがピンヒールを履いて入場したら?
 Twitterでレスを貰ったが、地面と接する面積が小さいピンヒールを履いていた場合 そこへかかる圧力は相当に高くなる。
例えば、セリーナ・ウィリアムズ(公称70kg)がクリスチャンルブタンの10cmヒールを履いて入場した場合、圧力としては電動車いすの比ではないリスクになってしまう。床をバッキバキにしながらルブタンで闊歩するセリーナ・ウィリアムズ、、ルブタンを脱がされ吠えまくるセリーナ・ウィリアムズ、、観てみたい光景だが やはり想像はできない。。

「そんな床あるか?」

 ボーダレスお台場の注意書きには 白鵬夫婦の来場も、ルブタン履くセリーナ・ウィリアムズへの記載もないが、ハイヒールに関する注意は一つある。

アスレチックエリアは、安全上ハイヒール・サンダル・下駄などのお足元が不安定な靴でのご入場をお断りしております。4Fにアスレチックシューズの貸出コーナーがございますが、貸出品は数・デザインに限りがございますので、運動靴などのご持参を推奨しております。

ただしこれは足元の不安定なエリア用の注意であり、「足首グニャりまっせ」という注意喚起だ。「耐荷重の兼ね合いでヒールはお断りしています」とあれば答えは出たのだが、要件が違いそうである。

注意書きから読む限りでは圧力説もどうも違いそうだ。

見え隠れする本音と建前ってやつ?

 重量と圧力という2つの説を検証してみた。検証からわかった「電動車いすが入場した場合、耐荷重の兼ね合いでリスクが生じる床で生じる危険」は以下の通り。

・大人3名が畳一枚以内に収まると危険が生じる
・白鵬夫婦は鑑賞の際、引き離される
・大柄な外国人の2ショット自撮りも危険
・耐圧力では女性一人分程度からリスク発生
・セリーナ・ウィリアムズ氏はハイヒール禁止

というわけで、
 白鵬夫妻が入場したりセリーナ・ウィリアムズがピンヒールを履いて来ただけで大変な危険になる素材を使っていない限り「耐荷重の兼ね合い」で電動車いすが入場を断られる理由としては疑問が残る。

障害者差別解消法の回避が目的?
 安全確保を理由に障害者の入場が拒否されたといえば、レゴランドでも事例がある。このとき訴えた障害者側のキーワードが障害者差別解消法だった。
 障害者差別解消法の一部には、かい摘んで言えば、「企業を含む団体はサービスの際、障害を理由に拒否しないような努力を可能な限りせよ」とある。”合理的配慮”というらしい。先のレゴランドの場合はそもそも親会社のポリシーに違反していたと認めて謝罪撤回し、この努力義務の議論には至らなかった。

 ボーダレスお台場の件の本当のところは分からない。が、仮に何かしら表に出したくない"電動車いすをご遠慮願う事情"があり、障害者差別解消法を念頭に「耐荷重の兼ね合い」という理由を表明しているのだとすれば、そこにあるのは「努力しましたが無理でした」という建前だ。

本音は分からないなりに考える
 入場を断る本音は警備コストや狭さや、ぶつかって事故が起きてしまった時の対処リスク、もっと総合的なものかもしれない。それで議論が起こるのを回避したいのかもしれない。分からない。
 だが、「耐荷重の兼ね合い」という理由もこれだけでは不可解に思う。耐荷重の兼ね合いが存在するのだとしたら科学的にどういう仮定をしているのか知りたいし、他の鑑賞方法も設けることはできなかったのか議論への発展は必要だろう。

 逆に科学を装った建前だとしたらデジタル科学をアートに使う集団としては信じられない。どちらに転んでも消化不良だ。
 作品の意味性から考えても、障害者差別解消法の求める合理的配慮の観点から考えてもより踏み込んだ説明が必要に思う。

まとめとして

謎しか残らない
「電動車いすご遠慮の謎」と題して書いただけあって、科学的に考える「耐荷重の兼ね合い」も謎なら、政治的な側面で考えた理由もいくつかの可能性を探れるものの謎のままだった。アート作品として捉えた場合も、謎である。

アーティスト集団としての回答を提示してほしい
 設計上の課題だとしても、他の展示方法・鑑賞方法が提示されておらず、チームラボの掲げる「他者との境界のない世界」から電動車いすの鑑賞者がオミットされている現実は残ってしまう。これは作品の評価としてどう捉えるべきだろうか。また、チームはその点をどう考慮しているかも気になるところだ。

「他者との境界のない世界」をテーマとした作品で入場を拒否するからには作家は相応の説明をしてほしいと願うばかりだ。
 とにかく事情がどうあれ今の説明では回答が不足しているのではないかという観点を提示して終わりにしようと思う。

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