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せっかく30歳になってからイギリス留学してるので、思った事を全部残しておきたくなった人の話

20歳の夏、僕は、大学を中退した。親に学費を払って貰っていた分際で、よくもまあ、そんな勝手なマネが出来たモンである。あの頃の僕は、大学を辞めれば何かが変わると思っていた。しかし、大学を辞めた程度で何かが変わるほど、人生は甘くなかった。それからの僕は、ありとあらゆるバイトを、速攻でクビになっていった。自分でもどうかと思うくらい根気がない癖に、プライドだけは高いのだから仕方ない。

しかし、演劇だけはコツコツと続けてきた。こうなったらずっと続けたい、それならキチンと勉強したい、なんて思ってしまった。かくして、僕は大学に入り直す事になる。しかも、ロンドンの大学だ。てなわけで、ここ数年は10歳近く年下の同級生たちに囲まれながら、カルチャーショックとジェネレーションギャップに襲われる日々である。

さて、せっかくなので、この留学生活中に考えていた事を書き残しておきたいという気になった。今までだってやる気はあったのだが、何となくズルズルと過ごしてしまい、気が付いたら最後の夏休みを迎えてしまった。(イギリスの大学は、3年制。)そこで、これからはコツコツと、日々おもったこと、リアルな留学生活のこと、後はロンドンの学生の恋愛事情なんかも書くつもりだ。いつまで続くか分からないが、とりあえず、これから夏休みが終わるまでの1ヶ月間は続けたいと思っている。今回は、留学生活 第1日目ついて。

2020年9月21日、ロンドン ヒースロー空港に到着した。当時のヨーロッパは、コロナの陽性者数が1日1万人を超えた頃である。今では感覚が麻痺してしまったが、「どうせ後2、3ヶ月で収まるよ」なんて呑気な事を言ってた頃だ。そんな中、ヨーロッパの感染者数の桁が遂に変わったという連日の報道は良く覚えている。まだワクチンも無く、医療スタッフ不足が世界中で問題になっていた頃の話だ。

その朝、羽田空港までの道中、会社に向かうであろう人々は、「そっちに行きたいだけだよ」みたいな顔をして、あからさまに僕を避けて歩いた。大きなスーツケースを持って、旅行用のバックパックを背負っていたからだろう。県外から来た人に対しての差別が問題になっていた時期だから、別に不思議な話では無い。羽田空港に着くと、普段なら活気に満ちている免税店は軒並み全て閉まっていて、小さな薬局が一つ、出発ロビーの端っこでポツリと営業していた。機内に乗り込むと、乗客は横一列に一人だけ。後ろの列が丸々空いて、その後ろにまた一人だけ。こりゃVIPだな!なんて軽口を叩く気には全くならず、負けないぞ、という一心だった。フライトは12時間。どうにも寝付けず、だからと言って映画を観る気にもならず、暗い機内でボケーっとしていたら、CAさんに「お仕事ですか?」と声を掛けられ、「はあ、まあ、そんなモンです。」なんて適当に返事をしてしまった。せっかく気に掛けてくれたのだから、もう少し愛想良くできただろうと今では思うが、心に余裕が無かったのだから仕方ない。そんなこんなで無事、ヒースロー空港に着陸。

ヒースローでは、羽田で聞いたのと同じように「移動中はマスクを着けて、消毒を徹底するように」というアナウンスが、ひっきりなしに流れていた。それを聞いて改めて、このウィルスは、本当に世界中で流行しているんだ、と実感した。入国手続きを済まし、到着ロビーで荷物を受け取って空港を出るまで、たったの一度も立ち止まる事がなかった。人が全くいなかったからである。外に出て、半日振りに新鮮な空気を胸一杯に吸い込んだら、腹の奥からモゾモゾと興奮が湧いてきて、ニヤニヤが止まらなくなった。何かが変わるかもしれない!と思った。

この時、俺は変わるんだ!と思わなかったところが、我ながら他人任せである。しかし、とにかくあの感覚は一生忘れたくない。


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