全裸の大罪

 当てつけだ、とやつは言った。これは当てつけだ、この世界に対するささやかな異議申し立てというやつさ、と。

 フルチンでそんなことを言われても困る。また、やつのやらかしたことを考えたら、ささやかな異議申し立てとはとても言えない。今となっては。

 すべての日本の大都市は狂気に占拠された。東京、大阪、名古屋。そのすべての大通りを、今や全裸集団が練り歩いている。ネオ・ヒッピーが公園を占領してへたくそなコンサートを無期限開催し、パスタファリアンは家系ラーメン過激派と手を組み、神聖讃岐うどん人民戦線と果てしない闘争を繰り広げている。地方都市もほとんどやつらの手に落ちた。いくつかの限界自治体が持ちこたえているが、陥落は時間の問題だろう。

 法と秩序は崩壊した。混乱はもはやこの日本に留まらない。極東アジア、そして環太平洋地域全体へと、この狂気は拡大しつつある。警察も軍隊も役に立たない。とどのつまり、この戦いの主戦場は、おれたちの頭の中だからだ。

 それでも、おれはやつを止めねばならない。もはや崩壊した、対テロ横断的タスクフォースの一員として、やつを逮捕せねばならない。それが、おれのすがりつく信仰、正気を保つ最後の拠り所だ。

 ところで、あんたに話しておこうと思う。なぜこんなことになったのか。そのそもそものはじまりから。おれはそれに深く関わっている。おれが過激派ヌーディスト集団への潜入捜査を命じられ、しくじって津軽海峡に沈められかけたあの日から、この混乱へのプレリュードははじまっていたのだ……。

(続く) 

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