ガンダム外伝アーサー・ドーラン戦記 プロローグ② ~U.C.0079.01.31

アーサー・ドーラン戦記 ~宇宙世紀パイロット列伝~

プロローグ2/6 ジオン独立戦争開戦から1月31日まで


U.C.0079 1月某日

「本艦は本日をもってルナツー輸送艦隊へ編成された。
「本艦の任務は、兵員・物資の輸送と宙域の監視である。皆知っての通り、開戦以来レーダー等監視・通信機器の信頼性は著しく低下した。各員、目視での監視を厳になせ。
「出航は12時間後、物資中継のーー」

ーー早速単艦で動くのになにが艦隊だよ。しかも護衛は無しときたもんだ……

 艦内放送の声の主、ルナツーで辞令を受け中尉へ昇進したばかりの船長、もとい艦長は興奮を抑え気味に努めて冷静に話して見せた。
 開戦劈頭、コロニー落としを防げず、ルウムの艦隊戦で惨敗を喫した連邦宇宙軍は再編を急いだ。残存艦艇は戦艦、輸送艦の別なく様々に異動・編成され、コロニー駐留軍や要塞防衛、パトロール部隊にと慌ただしく駆り出されていた。


 アーサーの輸送部隊は早々に月基地を離れ、衛星軌道上で展開する防衛部隊への輸送任務が割り当てられた。
 艦から艦へ、部隊から部隊へ、お使いのような仕事で二週間が過ぎた。戦前の平穏が嘘のような、昼夜ない忙しさに艦内は上へ下への大騒ぎであった。
 それまで戦闘機など片手で数える程度しか運んでいなかった平和ボケ輸送艦に、宙間戦闘機が1ダースもやってきたときは目を回した。当然積み切れず、船外に繋いで無理やり引っ張って運んだ。

 ほとんどは船外作業だった。アーサーは連続船外活動記録を更新した。宙間戦闘機“FF-4 トリアーエズ”1ダース納品の帰り道、地上から打ち上げられた戦力と月から持ち出した物資を配って回った。戦闘用に改装されたモビルポッド100機以上を、作業用モビルポッドに22時間缶詰(エアーと推進剤を補給しに6回帰艦したが下りる暇はなかった)で配って回った。
 戦闘は一度も見ていない。しかし、もう平時でないことは明らかだった。


 月基地へは開戦から一度も戻っていない。月は今やジオンの勢力下だ。生まれ故郷の地を踏めないことを初めて不安に思ったが、家族の住むサイド6は現在のところ戦火を免れていたので、アーサーは目の前の仕事に集中できた。
 衛星軌道を守る艦隊は一応ロジが回りだしたため、アーサーの乗る輸送艦は地上から打ち上げられた戦艦数隻とともにルナツーへやって来た。それが一昨日のことだ。
 今やアーサーは、ルナツー所属第一輸送艦隊11番艦「トーマイ」のアーサー・ドーラン伍長だった。


U.C.0079 1月31日

「ジオンに兵なし!」

 艦内モニターが映すのは、捕虜となったはずのレビル将軍であった。ジオンと和平協定を結ぶ会議が開かれるとは今朝の艦内放送で知らされていた。現場に情報が回ってくるのはいつもギリギリになってからだ。

 地獄のような忙しさだけを経験して終わるはずだった戦争が、この先も続くことになった日だった。


プロローグ③へ続く


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