ガンダム外伝アーサー・ドーラン戦記 プロローグ① ~U.C.0079.01.03

アーサー・ドーラン戦記 ~宇宙世紀パイロット列伝~

プロローグ1/6 ジオン独立戦争開戦前夜


 アーサーが月の輸送艦勤務から駐留軍兵站輸送部隊へ異動になったのは一年前、U.C.0076だった。サイド3駐留軍への輸送任務は楽なものだ。分離派が独立を叫ぶきな臭いコロニーだが、ピリピリするのは丘の連中くらいなもので、いまだに観光客はいるし、港の土産物屋は賑わっていたし、何度目かの上陸も平和そのものであった。
 サイド3には人気の菓子屋があった。月ではちょっとした評判だったものだから、アーサーの目的地は初上陸から定まっていた。もう幾度も足しげく通った菓子屋だが、しかしその日はシャッターが下りていた。
 小さな溜息を石畳に吐き捨て、もう一つの目的に頭を切り替えたアーサーが振り向くと、目抜き通りはシュプレヒコールを叫ぶ群衆が長い列を成していた。反地球連邦政府デモであった。駐留軍の撤退、自治権拡大を叫ぶ群衆は、警察に囲まれながら目抜き通りを進んでいた。

ーー以前のデモより多い

 二ヶ月前の上陸の際も別の通りでデモに出くわした。目の前の群衆はその時の倍ほどに膨らみ、取り囲んだ警察は機関銃で武装までしていた。
 それにしてもすごい規模だ。艦内モニターが流すニュース映像で見た以上の規模ではないだろうか。
 見るともなく眺めていると、町中が参加するお祭りのような、似つかわしくない錯覚を覚えた。


 目抜き通りと非対称に、アーサーの立つ土産物路地は静まりかえっていた。デモに参加するためか、暴徒から店を守るためか、店はどこも閉まっていて人気を感じない。
 ふと見まわすと、港からきた他の船員や観光客は消え失せ、石畳に立ちつくす自分とデモ隊を遮るものは何もなかった。
 アーサーは急に恐ろしくなり、踵を返して元来た道を戻った。目抜き通りを挟んだ向かいの通りには茶器の店があり、今日こそはアフタヌーンティーセットを買うつもりでスーツケースを引きずってきたのだが、アーサーは結局手ぶらで港に戻ってきてしまった。


 アーサーがサイド3へ降りたのはこれが最後となった。まもなく、サイド3は出入国規制を発表。サイド3の駐留軍は多くが引き上げ、アーサーの輸送艦がサイド3へ立ち寄ることもなくなった。
 翌年、サイド3は地球連邦と戦争を始めた。アーサーは輸送艦の中で開戦の報せを聞いた。

プロローグ②へ続く

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