ガンダム外伝アーサー・ドーラン戦記 プロローグ③ ~U.C.0079.10.xx

アーサー・ドーラン戦記 ~宇宙世紀パイロット列伝~

プロローグ3/6 2月から10月までのルナツーでの日々

U.C.0079 2月某日

 宇宙世紀初期に就航した小さなオンボロ補給艦は明らかに力不足であった。アーサーはコロンブス級へ異動が決まり、艦長以下全クルーが完熟訓練を兼ねたルナツー要塞改修作業に駆り出された。
 コロンブス級トーメ。アーサーは新たな乗艦の搭載能力に驚いた。ルナツーのワッケイン司令はこいつでモビルスーツを運ばせるつもりらしい。連邦軍のモビルスーツなどどこにあるのか。

ーーそんなものが有るんなら出し惜しみするなよな。有るんならね……

 トーマイのような力不足の艦艇はお役御免となり、補給部隊は大幅に再編された。
 コロンブス級トーメのヤマイ艦長はオンボロ時代からの上官だ。彼は古い気質の船長、もとい艦長だった。彼は船長と呼ばれることを嫌った。船長と呼ばれると大変厳めしい顔をなさるので、クルーの間では彼の表情を真似るのが習わしになっていった。

 ルナツーは要塞化が更に進んでいた。トーメは補給艦であったが、作業用モビルポッドと有線監視装置を詰め込んでルナツー宙域の監視網形成に奔走した。
 この間、アーサーの仕事は船外作業用ポッドの操縦だった。開戦以来、ポッドのシートがアーサーの寝床になっていた。

 船外作業中、戦闘の光を見た。薄い外装一枚で宇宙と隔てられる我が身は、流れ弾どころか速度の乗ったデブリ一つであの世行きだ。何度も作業の手が止まった。震えながら、軍人になったことを後悔した。


U.C.0079 10月某日

 ルナツーは墜ちない。皆そう言った。アーサーもそう信じていた。
 幾度も本格的な戦闘が行われたが、戦火のただなかに補給部隊の仕事はない。監視、艦の改修、モビルスーツや戦闘機の整備、戦闘が終われば機体の回収。それが最近のアーサー達の仕事だった。開戦直後の緊張感は薄れていた。あの艦が来るまでは……

 9月、ホワイトベースが入港した。初めて見る型の戦艦だった。ミノフスキーフライトで大気圏内飛行が可能という話だったが、翼を生やした異形の戦艦にアーサーは違和感が拭えなかった。

 ホワイトベースを追ってシャアが来た。ジオンの赤い彗星、ルウムで戦艦5隻を葬った化け物だ。初めて見たモビルスーツ戦の映像に映っていたあの赤い機体が、目の前に現れた。
 今が戦争で、コロニーが幾つも沈み、なのに自分は死なないと、薄っすら鈍っていく現状認識が吹き飛んだ日だった。


 地球で大規模な反抗作戦を企てているという噂がある。反抗作戦の後にジオン本国に攻め込むのだと言う者もいた。
 アーサーはモビルポッド操縦技術が評価され、転科適正テスト(強引に受けさせられた)に合格したのでモビルスーツ操縦訓練課程を受講することになっていた。
 戦闘用モビルポッド「ボール」には既に搭乗した。作業用ポッドと違い視界が狭く、重すぎて動きがのろかった。シミュレーターで人型に乗ってみたがこちらは勝手が違いすぎてまともに動かせず不快ですらあった。
 戦闘機乗り達は続々機種転換を終えていたが、アーサーはモビルスーツが好きになれなかった。

プロローグ④へ続く

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