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シン・ワークライフバランスの彼岸

GWを跨いで、コロナがひと段落した。ということになっている。

全社、数百人が一堂に会する宴会的な機会があり、あらかじめ洗脳しておいた若手社員の司会を操って突然登壇し、同様に洗脳した5人のバックダンサーとバイオリニストを従えて自作の歌を歌って踊る芸を披露した。宴会部長の面目躍如である。

めっちゃくちゃウケた。

いうてそれまで私は入社1年満たない知る人ぞ知る狂った狩人に過ぎなかったのだが、あいつはいったい何者なんだと前方にいた役員一同が騒然、壇上を降りた私に偉い人が殺到した。直属の役員からは「芳川さんを採用して本当に良かった。履歴書に特技、宴会芸全般と書いてたのはマジだった」とハグされ、代表取締役社長からは「あなたのような人を待っていた、2ショット写真を撮って欲しい」とせがまれ、「まあ、良いすよ」と何故か私も上から目線でそれに応じた。洗脳したバックダンサー他にも金一封が付与され、さらなる打ち上げが約束され、洗脳は確固たるものになった。

書いてみると、我ながら発狂して嘘を書き散らかしてるように見えるが、全体的に実話である。

総務系の役員の人からも「マジで最高、握手して下さい」と頼まれて握手に応じたこともあり、これで私の「狂った狩人のように成約しまくるので後処理をする総務とかの手間暇が増えてめちゃくちゃ文句を言われる問題」が解決した、マジで奇策で解決したった、そういう風に考えたいところだが、コトはそう単純ではない。


私も、ウケて知名度が増えて人気が出れば仕事も多少やりやすくなるかなという少しの目算もあったが、95パーはシンプルにウケたかっただけなので、それは果たしたので良いのだが、5パーの下心はあまり目に見えた効果はなかった。

まず、何度でも言うが弊社はホワイト企業である。

福利厚生が整っていて、休みも取りやすいし、成果を出しても、「出さなくても」別に減給などがあるわけではない。残業もだいたいの人はない。
長く安定して働きやすいのだが、成果を出さなくても減給されないということは、成果を出しても昇給しないということである。

回りくどい言い方をせず、はっきり言おう。

ホワイト企業とは、突き詰めると「全然働かない、やる気のない人たちにとって、楽園のような会社」なのである。

そしてこういう人たちは、そもそもこういう「全社イベント」みたいなやつには堂々と不参加であるし、そして平素の楽な業務の安寧を脅かす私のような狂人は、「なんか歌って踊ってたらしい」というエッセンスだけが伝わり「やはり狂人だったか、なんとか文句を言い続けて辞めさせるべき」という結論に帰着するのである。そしてこういう方々は、勤続10年とか20年とかで横の連帯が強く、役職はないが実務の中核を握ってたりして、本当に侮れない。

こうなったら全員黙らすまで結果出したるか、もっともっと偉くなるか、と静かな闘志を燃やしているのだが、そのせいで成約と同時に残業も増え、5月の平日に子どもの寝かしつけ戦線にまだ参加したことがなく、妻の怒りはMAX、このままいくと一度は許可を勝ち得た「バックダンサーたちとの打ち上げ」もご破産になりそうで、いったい私は何のために働いているのか、色んな意味で会社員が向いてないな、ワークライフバランスって結局どうすりゃいいんだ、と思い悩んで悶々とする。


「ていうか、バックダンサーってどういうこと?」

ようやく妻のマジレスが追いついてきた。
家庭の安寧はまだ、遠い。

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