バイキンマンとキリンの鳴き声 男性育休記57/68
うちの2歳児は、基本的に悪役が好きである。アンパンマンであればバイキンマン、パウパトロールでいえばライバール市長、ドラえもんならジャイアン。真っ当なこどもの感性からすれば、品行方正なヒーローより、好き放題やるヴィランの方に肩入れするのは必然なのかもしれない。
そこで一緒に風呂に入る時などに、バイキンマンの歌を歌ってあげていたのだが、後日、YouTubeか何かで見直して愕然とした。
私は歌詞を間違えて覚えていた。
冒頭部分を間違えている。
「おれはすてきなバイキンマン 目にも留まらぬ早業で」
と私は歌っていたのだが、正しくは
「目にも見えない早業で」
と、ハヤワザの前が違うのである。いったいどうしたことだろうか、私はどこで「目にも留まらぬ」を覚えてしまったのだろうか。こんなクソどうでもいいことで心の底から動揺した。2歳児は既に「めーにもとまらぬ」と覚えて歌っている。このままでは、バイキンマンの歌が正しく歌えない咎を背負い、小さいおともだちのみんなから「あいつ、まちがってるぜ」と投石されるなどの憂き目に遭うのではないか。完全に私の落ち度で申し訳ない。投石、当たりどころが悪かったら死んじゃう。
贖罪の想いを抱きながら、まずは原因究明した。そして検索の結果割とすぐにわかった。持つべきものはインターネットである。
忍者ハットリくんのオープニングと取り違えている。
「山を越え 谷を超え♪
(中略)
目にも留まらぬ早業で
投げる手裏剣ストライク」
これである。
ここの「目にも留まらぬ早業」に引っ張られてしまっていたと思われる。
再発防止のためには、「早業」につく枕言葉として、まあほんとにどっちでもいいけど「目にも見えない」か「目にも留まらぬ」か、なんとなく後者の方が速い感じあるかな。目にも見えない、は、のほほんと見ようとして見えなかったという速度に感じるのに対し、目にも留まらぬ、は決して見逃すまいと目を凝らしているのにも関わらずそれを凌駕する速度で動いていて全然見えない感じ、がある。いやまあ、ほんっとうにどっちでもいいんだけど、統一して欲しい。それはもう、国の方でバシッと決めて欲しい。ねぇ、岸田さん、なにやってるの。これだよ、あなたの仕事は。「垂乳根の」ときたら「母」と続くくらい当たり前に、国語の教科書に載せるくらいバシッと決めて欲しい。
とはいえ、いまここで岸田さんに言っても忙しそうだし、局地的に我が家で起こっている齟齬は、そもそも私のせいであるし私がどうにかしなければならない。それが筋でしょう。岸田さん、名前出してごめんね。
それから私は、登園中はひたすらバイキンマンの歌を、正しい歌詞で歌い続けた。ご近所の目?知るかよ、間違えて覚えて子どもが投石されるよりはいいだろ。当たりどころが悪いと死ぬんだぞ。投石をなめるなよ。
おかげさまで、概ね3日間の歳月をかけて「めーにもみえない」と歌うように軌道修正できた。一度覚えてしまったことを修正するのは大変であるということが身に沁みた。
これからは早業に限らず、できるだけ正しい知識を伝えてあげたい。いい加減なことは教えられない。もっと学ばないといけない。ああ、こうして人生の勉強は新たなステージで続いていくのだ。
と、思っていたら眼前で早速次の問題が発生していた。
「ママ。キリンさんやって。キリンさんなんていうの?」
「キリキリキリーン!」
君たちは動物園で何を見てきたというのだ。そんな鳴き声聞いたことあるか、適当なこと教えてんじゃねえよ。
私の戦いの道のりは果てしない。キリンは牛と同じ偶蹄類、「モー」と鳴くのだよ。覚えておきたまえ。
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