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積読とさよならした話

桃鉄からカービィへの華麗な転身

突然だが、ゲーム好きな我が息子はSwitch版の桃鉄(桃太郎電鉄)を持っていた。
本来はマリオなどのゲームが好きな彼だが、誕生日だったかクリスマスだったかに、私が「日本地図も憶えられて教育にも良いんじゃね?」と邪念を抱いて息子に勧めたのだった。

何度か一緒にプレイしてみた。
ところがどうも楽しめない。
キングボンビーはえげつないほどの仕打ちをしてくるし、プレイ時間はめちゃくちゃかかる。
小学生の1日のゲーム時間(1時間前後)では、とても進められない。
ボンビーを引くたびに機嫌が悪くなる息子、凍り付くリビングの空気。

「あ、これ、オトナ向けのゲームなんだ・・・」と気づくのに時間はかからなかった。
これを楽しむには、余りあるゲ-ム時間と理不尽に降りかかる不運を笑い飛ばせる余裕が必要だ。

私の脳裏には、煙草の煙が充満したなかで夜通し麻雀をする悪そうな大人が浮かんだ。(※妄想)

それから、1年以上が経った。
息子は変わらずゲームを楽しんでいたが、桃鉄は完全にスルーされていた。

そして、ある日ネットサーフィンをしていた私の目に入った文言。

「桃鉄:買取額3,500円」

目を疑った。
1年以上前に発売したゲームソフトを半値以上で買い取ってくれるというのか!
売ろう!今がチャンス!!

ちょっと嫌がる息子を説得し、早速ゲオに買取に行って3,500円+キャンペーン割増200円を受け取った。
驚いた息子はなんとその場でおこづかいを足してカービィの旧作を購入し、歓喜の雄叫びをあげたのだった。

私の本棚には桃鉄が100本あった

この光景を目にしたことは大きかった。

私はこのように息子を説得した。
「桃鉄は確かに人気があるけど、君にはちょっと早かったみたい。
やらないのに持ってるのはもったいないよ。
今なら高く売れるから、それを売って代わりに好きなものを買ったら?
もし将来、桃鉄がやりたくなったら、また買い直せば良いんだし。」

グサッ

なぜか自分の心にグサッときてしまった。
自分で言ったことなのに。

振り返ると、本棚に整然と並んでいる本がコッチを見ていた。(ような気がした)
何ならKindle端末からも視線を感じた。(ような気がした)
そう、積読されている彼らから。

息子が持っていた桃鉄が1本なら、私は既に100本持っていたのだ。

さよなら、私が好きだと思い込んでいたものたち

「ダイエットしたい」と思って、サプリメントを買う。
ところがどれもイマイチで、いつの間にかどんどん買い込んでしまったことはないだろうか。

本来の目的は「ダイエット」なのに、いつの間にか「新しいサプリをいち早くオトクに買うこと」にすり替わってしまったことはないだろうか。

私はある。めっちゃある。

ダイエットには食生活や生活習慣の改善、運動など他にやれることがあるのに、一番手っ取り早いサプリに飛びつくのだ。
それも大量に。

私にとって、それが本や教材だった。

自己啓発書、ビジネス書、デザイン書、絵画技法書、プログラミング本、料理本、教養本、動画教材など。

純粋に本が好きな人とは違って、私の本棚は「自分がこうなれたらいいな」の下心が丸出しだ。
だから「好き」とは違う。
それは、ダイエットにおけるサプリメントである。

その証拠に、私は誰かに本棚を見られるのがとても恥ずかしい。
本好きなら「この本おもしろいよね!おすすめはこれ!」と盛り上がることだろう。
私の場合は、引き出しにパンパンに詰まったダイエットサプリメントを見られた時のような気持ちになるのである。

しかし、不思議なことに、私自身は出世欲もなければ大金を稼ぎたい野心もなく何かの専門家になりたいわけでもない。
正直、誰かの上に立つことすら嫌だ。
定年まで現場でネチネチ作業することが目標である。
だから今のぬるま湯のような職場から転職する気もないし、ましてや起業やら経営なんて1ミリも関係ない。

こんな私なのに、どうして本棚には「成功したい人のための本」が並んでいるわけ?

周囲を見誤っていた自分

「自分とは、自分の周囲5人の平均である」と聞いたことがある。
私は「同じくらいのレベルの人が群れるもんだよね~」的に解釈している。

ところがどっこい、SNSでは「オフラインの生活ならとてもお知り合いになれない人」と関わることができる。
一流企業のどえらい人、国際的な著名人、インフルエンサー、芸能人、研究者、バリバリの専門家…その道の第一人者の存在を生々しく感じられる。

メディアや誌面でしか知り得なかった有名人が、まるで目の前にいるかのよう。
運がよければ、直接コメントをもらえちゃったりする。
一時期、私はそんなめっちゃすごい人をフォローすることに夢中になった。
やっぱり皆さん、良いこと言うんだもん。
なるほどって思っちゃうもん。

人間には「何度も接する相手には親しみを感じるようになる」という性質があるらしい。
同じ商品のCMを何度も見ていると、身近な存在に感じてくる…みたいな。

だから、毎日のようにすごい人の発言を見ていると、例え実際に関わりがなくても、だんだんと身近に感じていくものなのなのかもしれない。

現実の私の周囲にいるフツーの冴えない5人が、キラキラ輝く5人に入れ変わる瞬間。
いつの間にか、私は脳内で彼らの仲間入りをしてしまったのだ。

輝く人はたいてい努力家だ。
才能も素養もあって、その上でめっちゃ勉強してる。
そんな人が有益な本や教材を勧めれば、そりゃ即ポチするでしょうよ。

「すごい人は努力して成功している…」
→「私も努力して同じようなスキルを身に付けなければ」
→「こんなにがんばっているのに、どうしてできないのかな?」
→「きっと、努力の方向が間違っているからだ」
→「新しい本を探そう!」
無限ループ爆誕である。

いや、でもちょっとまって。

ブランディング?マーケティング?ナントカ論?ナントカ経済学?ナントカシンキング?ロジカルナントカ?
それは、私にとって大切なものだろうか。

私は「作業労働者」だ。
私の仕事は、ド素人でも週間程度の研修を受ければこなせる単純作業がメイン。
10年以上勤めても手取り20万に満たない、しがない労働者だ。
そして、ナントカ論は私の仕事には役立ちそうにない。

それでいて、私はそれ以上を望んでいない。
私にはそれだけの能力しかなく、性分に合っているとすら感じるからだ。
私は、食べていけるだけのお金があれば良いし贅沢をしたい欲もない。
能力もなければ、深夜まで働けるほどの体力もメンタルもない。

今まで私は消化しきれない本や教材に苦しんできた。
それは、「努力が足りないからだ」と思っていた。
でもそれは違った。
「私にはそれをこなす動機も能力もないから」だったのだ。

そりゃー、すごい人と同じもの(しかも多分野)を理解したり実行できるわけないのだ。

現実を見る

TLで勧められている本を次々と買う。積まれる本。 有益情報があれば飛びつき、Kindleのセールは目を皿のようにしてよりお得なものを探す。どこかの大学や企業が放出した無料教材をダウンロードする。伸び続けるYouTubeの登録チャンネルリスト、膨大なブラウザのブックマーク。動画教材は1本数時間だから、見るのに一生かかるかもね。

もう、無理ッピ。

私は桃鉄に別れを告げることにした。
なんで無理に桃鉄をプレイしようとする?
必要なのは、私の心を満たすカービィだ。

現実の周囲を見ろ。
毎日遅刻もせず、真面目に働く人たち。
難しいことはわからないし単純作業ばかりだけど、(なるべく)正確に仕事をこなしほぼ定時で上がり、休日は家族と一緒に過ごす、ちょっと貧乏な普通の人たち。
犯罪を犯さずギャンブルに狂うこともない、仕事が終わればさっぱり忘れてボーッとテレビやネットを楽しむような。
そういう、無意識に私がちょっとバカにしていた人たち。
それは、私だ。

私は、今まで周囲に刺々しく接してしまう時があった。
「努力している自分は、あなたとは違う世界にいる」そういう驕りがあったのかもしれない。
(何にもできないくせに痛すぎる。)

そんな濁った色眼鏡を外したら、急に周囲からあたたかさが感じられた。
「私が生きる場所はここだった」と嬉しくなり、不思議と優しい気持ちになった。
巨人の肩に乗るとか偉そうなことを言っている場合ではない。
私は、隣人の肩に寄りかからなければ生きていけないのだった。

自分を理解するのは、こんなにも難しい。

「ダメな自分」として生きる

自分がダメ人間と正しく認識できたところで、それでも私は努力するだろう。
でもそれは、ダメダメな私がちょいダメの私になるためであって、キラキラ輝く何かになるためではない。

今まで「こんなこともできない私に価値などない…」と何度落ち込んだことだろう。
○にたいと思ったことも数えきれないほどあった。
私は自己肯定感が低いと思っていたが、そうではなかった。
逆に、自分に期待しすぎていたのだ。

でも、もう落ち込む必要はない。
アホはアホなりに前進できるからだ。
こんな私でも、自分が生きるために、楽しむために必要なことを学び続けることはできる。
ポンコツなりに人生を楽しむことができそうな気がした2022年のGWでありました。

補足~やったこと~

紙書籍の処分

処分・譲渡・買取(ネット書店)。

電子書籍の処分

読んだものは基本削除した。
ポンコツは読んだ内容を忘れるので、すぐに再読したくなる罠が発動する。
端末からデータを削除しても再ダウンロードできてしまうので、本自体の削除を行った。
こうすると再読する時は、もう一度購入する必要がある。

書籍の総数はたぶん2割くらいになった。

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弁解とお詫び

本はすばらしい。
手軽な価格で膨大な知見を得ることができて、人生を変えることだってできる。
桃鉄はすばらしい。
こんなに長く愛されるタイトルは滅多にないだろう。

いつか楽しめる時がきたら、また会いましょう。

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