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絵本で子育て〜『チムとゆうかんなせんちょうさん』心にいつも憧れを抱くことの大切さ

目の前の海に憧れる。そこに働く船乗りに憧れる。子どもたちは身近な景色から空想を膨らませています。何気ない憧れはいくつもあっていいし変わっていい。大切なのは憧れを心に持っていること。それが原動力になります。

冒険の旅へ

チムぼうやは、かいがんのいえに すんでいました。

チムは、ふなのりに なりたくてたまりませんでした。


まず、この出だしでチムの冒険心に火がつきます。
船乗りになりたいというチムですが、
まだ小さいからと両親には反対されます。

けれど、沖に出るボートがあると聞いて乗せてもらい、
汽船に乗り込むことに成功するのです。

それから船での生活は、てんやわんやの連続です
船の仕事を手伝いながら厳しさと楽しさをその身に刻んでいきます。

嵐から船に居残ってしまったチムは、
船長と「海の藻屑」となる決心まで!
ですが、チムが大声で叫び、危機一髪、救出されるのです。


勇ましいチムの行動が両親を納得させ、
夢をかなえる(船乗りになる!)ことになるのです。

身近なことに憧れる


子どもたちにとって生活する場とその周辺が世界のすべてです。

チムのように海の近くに住み、いつも船をながめて暮らす少年にとって
船乗りになりたい!
それは当然のことのように思われます。

昔、船乗りだった人の話を聞いたり、
見える船の名前を知っていたり、
船乗りへの憧れをきちんと描いています。

憧れをもつこと。

チムと同様に、身近な仕事の景色から
家の仕事を当然のように継いでいたのは、
そう昔のことではないのです。

はじめての体験


子どもたちにとっては日々が新しい!
その中から憧れを見つけることでしょう。


まわりの大人たちができることは、
”はじめて”の体験の機会を与えること。
そして、見守り続けること。

はじめての体験、といっても特別なことではありません。
子どもたちは、ちゃんとみています。
なんといっても”子どもですから”大抵のことは”はじめて”なのです。

自分の子どもの頃を思い出してみましょう。

海と空の大きさ

チムにとっての海と空。

私にとっての子育ては子どもを媒介にして、
あらためて様々なことを追体験する悦びでした。

例えば
はじめて雨に打たれた時の感触
森で聞いた鳥のさえずり
溶けたバターの香り
星のきらめきや漆黒の空
タンポポの綿毛の柔らかさ
転んだ時の痛さ

五感を研ぎ澄まして、
子どもたちはすべてを吸収し育っていくのですね。

アーディゾーニの絵


この絵本の挿絵は落ち着いた色彩で描かれています。

短い線がつながれた独特の筆致とイギリスらしい空気感を含んだ色彩で描かれ、
白黒のページと交互に配されています。( こちらは新版以前の表紙)

色合いもパステルで原色はほとんど使われていません。

5歳からイギリスに暮らす作者。
空がほとんどくもり空なのは仕方ないのかな。

そこに赤い服をきたチムはとても目立ちますね。
視覚イメージは重要です。
絵を読んでもらう声を聞いている時にずっと眺めているものです。

絵本の重要性がここにあると感じます。

絵本のなかに描かれる人々


絵本の絵の所々に本編にはない登場人物のセリフが、
吹き出しにはみ出ていてなんだかとてもユニークです。

「とってもいきたいよ」
「いたいよ いたいよ みみがちぎれるよ」

一見おとなしそうみえるチム、
決してあわてず落ちつきはらっている両親。

アーディゾーニの絵には不思議な空気感、落ち着きを感じます。

ドキドキワクワクの冒険だからこそ、
あえて地味ともいえるアーディゾーニの絵、なのだと思います。

もちろん好みもありますけれどもね。


昔話やグリム童話など、挿絵によって話の印象が変わりませんか。
機会があったら図書館などでくらべてみましょう。

きっとこっちは好きだけど、これはちょっと…
そんな風に感じるかもしれませんね。

それもまた絵本の楽しみ方です。
それだけ絵本において、挿絵は重要です。

なんてったって「絵本」、絵と本(文)ですからね。

子どもも一個人



チムは子どもの自由さで考え動きますが、思慮深くもみえます。
両親は教養もあり優しそうですが、子どもに執着がないようにもみえます。

同じ作者の『時計づくりのジョニー』でも同様に感じました。


もちろんチムを信頼してのこと、
というのはほかのシリーズを通してわかっては来るのですが、
日本とは違う子どもへのまなざしを感じます。

子どもも一個の個人として尊重している、とでもいいましょうか。
親の庇護下にあれど個人として認めている、という気がします。

時代や国が違うことで、
今、
とは違うということを知るのです。

絵本から物語へ


2001年に刊行された11冊は以下の通りです。

チムシリーズ全11巻
①チムとゆうかんなせんちょうさん
②チムとルーシーとかいぞく
③チム、ジンジャーをたすける
④チムとシャーロット
⑤チムききいっぱつ
⑥チムひとりぼっち
⑦チムのいぬタウザー
⑧チムひょうりゅうする
⑨チムとうだいをまもる
⑩チムさいごのこうかい
⑪チムのうひとつのものがたりコックのジンジャー

海へのあくなき憧れ、仲間たちとの冒険譚は、
物語を読み進むうちに、きっとチムたちに共感することでしょう。

そしてチムたちと一緒になってワクワクするに違いありません。
絵本から物語へと読み進む子どもたちにも最適な絵本です。

◉◉◉
チムとゆうかんなせんちょうさん
エドワード・アーディゾーニ さく
せたていじ やく
福音館書店 1963年 新版 2001年

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