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日和とフィーカ〜7杯目〜

風の中で映る記憶

晴天の下、所用がありバイクに跨っている。まぁなんてことはないただの帰省です。夏の終わり頃はことごとく悪天候を引き当ててしまい、全くツーリングに出かけることもできなかったので、僕は久々の帰省の足を愛車のReble250に委ねることにした。

時間が押していたため(二度寝した上にバイクの鍵がなかなか見つからなかったから)やむをえず高速道路のルートを選択する。パワー不足故にできればのんびりと下道で向かいたかったのだが、まぁ致し方ない。何せ自分のせいなのだから。

この頃は丁度、空気が秋の訪れを感じさせる時季に差し掛かっていて、相変わらず照りつける太陽ではあったが、それを宥めるかのように涼しげな風が僕の体をすり抜けていく。30年以上も季節の移り変わりを自身の体で感じてきたという経験値を以ってしても、このそこはかとない哀愁を孕んだ爽快感には打ち震えるような感動を覚えてしまうものだ。

その感動と共鳴するかのように、この季節の記憶が次々と頭に浮かんでは消えていく。風を切りながら走る最中、まるで走馬灯のように流れていく。あまりにもとめどなく溢れてくるので何か違うことで頭を埋めようと今日の目的地のことを考えたりしてみたが、そんなに都合よく頭を切り替えることなどできない。
僕は少し強くアクセルを握り、振り向かないように走り続けた。岡山まであと少しだ。

ご飯とおやつ つぶこし食堂

倉敷駅にバイクを置き、久々の地元を歩く。観光地として割と有名な倉敷は平日も週末問わず国内外の多くの観光客が訪れる。しかし、地元故にその観光地に対する物珍しさなんかは全く無く、あぁこんなところを部活終わりにチャリで爆走していたよなぁという何とも青春でありシュールな記憶を思い起こすばかりである。

北口から駅を越え、デッキを伝って商店街へ入る。そのまま行進んで行くと美観地区まで抜けることができるのだが、本日はその手前に位置する店が目的地「つぶこし食堂」。

手書き感が可愛らしい看板
9494さんの間借りで営業

創作洋風居酒屋9494さんの間借りで営業しているお店。
シンプルさが逆に際立ち、そしてものすごい大きく見える看板はとにかく目を惹く。笑
実はここは僕の後輩が始めたお店で、10年以上ぶりの再会をしつつ、おめでとうと顔出ししてきたというわけです。改めましておめでとうございます。
しかし久々の再会というのはどういう会話から始めればいいのだろうか。なかなかわからないものだ。

他のお客さんもいたので、邪魔をしては良くないかと席からぼんやりと手際を眺める。その姿を見ていると時間の流れをしみじみと実感した。
飲食等で独立、開業した知り合いはいるが、その経緯も全くわからずにその場で「お久しぶり」と再会するようなことはこれまでになかった。空白の時間を噛ませるだけで、まるでタイムスリップしたような感覚に陥る。親戚の小さかった子に対して、もうこんなに大きくなったの!と言ってしまう感覚に近いものだろうか。それが親戚の子供でもないから頭の処理がうまく追いついていかない。

程なくして注文したおにぎりセットが卓上に届いた。大ぶりのおにぎりに数種の小鉢、具沢山の味噌汁。手を合わせ、それらを食べ始める瞬間、なぜか緊張が走った。それが僕だけのものだったかは不明だ。

量もたっぷりでとてつもない満足感。食レポなんかはこの場では無粋なものだとは思うが、食べ終わっての感想だけ言うと、食べる人の顔を思い浮かべながら作られたんだろうなという抱擁感(おにぎりだけに)のある内容で、その優しさは出会った頃の後輩の人柄をそのまま映したようなものでした。

食事のあとも少し長居しながら会話を重ねていたが、まだまだ10年の空白が埋められることは無い。僕の口からは昔の事を思い返しながら、「立派になったな」というとんでも上から目線が溢れ出る。
昔のことはガキすぎて恥ずかしいなんて言われようとも、そこを突っつき、突っつかれながら積み重ねていくのが再会の楽しみでもあるのだ。


過去の記憶というのは、確かにその時点のみの記録であるが、その過去に関与する僕たちの時間は潜在的に連続している。君も成熟していくし、僕だって多少なりとも変わっていく。
そんな連続する時間の中、とある出来事が起こると、その一つ一つが日々の拍動となり、将来、僕たちの生活は鼓動で満ちたものだったなぁと振り返ることができるのではないだろうか。
そう考えると、過去を想起するというのはただ囚われているのではなくて、案外未来に繋がることなのかもしれないな。

まぁどう考えてみたところで、季節が変わる度、懐かしい街を訪れる度、好きな音楽を聴く度に、様々な感情や記憶は生活に絡みついてくる。そして日々の中ではっきりと鼓動を感じながら、これからも続いていくのだろう。

今日の営業が終わったら積もった話をしようか。
まずは⋯謝りたいことがあるんだけど。

高校時代チャリで疾走した美観地区

〆。


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