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お年寄りをいたわってみた

つい最近ベルギーにはマノンというお菓子があることを知った。とても食べてみたくなりあれこれ検索した結果、阪神梅田店の中にあるヴィタメール(ショコラ中心の洋菓子店)では金土日の週末限定でマノンを売っているというネット記事を見つけて、今朝は梅田へ出かけた。

デパ地下は楽しいが人が混むので苦手だ。デパ地下を歩くのは結構気合いがいる。気になるものをチェックして、チェックし忘れたものを見に戻ったり、通りすがりに偶然見つけた富澤商店をじっくり見ていたりして、気づけば阪神百貨店と大丸のデパ地下を2〜3往復してしまい、それなりに疲れてきた。

最後に阪神百貨店で原了閣の黒七味を買おうとした。黒七味を手に取りレジの行列に並ぶ。なかなかの行列で、こんな七味一個買うだけでこんなに並ばなければならないなんてとまあまあ嫌気を差しつつ並んでいた。

あと3人くらいまで進んだところで、棚の角に杖をついて、エコバッグとレジカゴを持ちづらそうにしているおじいさんがいた。膝がお悪いか、股関節もお悪いか、立ち歩きが辛そうなご様子で、自分の目の前までレジ行列が短くなったら最後に着こうとでも考えていらっしゃる雰囲気だった。

しかしレジの行列が順調に進んでもあとからあとから人が並ぶので、列は一向に短くならない。おじいさんはあきらめて最後尾まで歩く決心をなさったようだが、歩く様子があまりにも覚束ない。

私が買いたいのは七味一個だけ、おじいさんのレジカゴには天むす一箱だけである。ああもう一緒に払ってやろうと腹をきめ、おじいさんに声をかけた。

「おとうさん、それ私のと一緒に払おや?」

大阪弁丸出しのタメ口で、親子以上に年上と見られるご老人への口の利き方としてあまり感心されるものではないが、こういう押し売りの親切を申し出る時は丁寧な敬語よりもぞんざいなタメ口の方が相手が素直に頼ってくれる。なぜかはわからないが丁寧な敬語を使うと相手が遠慮してお断りになる確率が上がるのだ。

おじいさんはうれしそうに「ほなよろしく」とレジカゴを差し出してきた。カゴの中には天むすと一緒に千円札と百貨店のポイントカードが入っていたので「これで払たらええねんな?」と確認して、私の七味と一緒に会計した。私のポイントカードではなく、ちゃんとおじいさんのポイントカードを使ってやった。

会計後、天むすのお釣りはいくらになるかを計算して、おじいさんにレシートとお釣りと天むすをお渡しした。小銭の都合でお釣りがうっかり10円足りなくなってしまったが、そこはさすがにおじいさんも「ああ、10円くらいかまへん、かまへん」と勘弁してくださった。本音を言えばお駄賃代わりにお釣り丸ごとくれないかなとちょっとだけ期待したがそうは言ってくれなかった。

「気ぃつけて帰りやー」とさよならした。

足元はずいぶん弱っていらしたが、お顔つきは福福しく、あのおじいさんが実は七福神の化身か何かでなんぞご利益をくれないかなーなどと欲の張ったことを考えている。

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