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ベランダのソファ

はじめての1人暮らしは、当時でもレトロすぎた、古い木造住宅。前の住人の置き土産である黄色いソファが、2階の1Kにぽつりと残されていた。

暮らし始めた際、ソファはありがたくいただいたものの、置いたままでは布団すら敷けないので、ベランダに置くことにした。
多少広い作りのベランダではあったけれど、2人掛けソファを置いてしまえばかなりの狭さになるうえ、そこは景色もなにもあったものではなかった。向かいの一軒家との距離が近いので圧迫感があり、上を見上げてようやく、小さく切り取られた空が見える程度。
それでも、秘密基地めいたソファスペースは嬉しく、夜な夜な腰掛けては、寝転がったり、煙草をすったり、飲めないお酒をちびちびなめたりしながら、ゆったりと過ごすのが好きだった。

初めての恋人と、そのソファで流星群を眺めた。深夜に、毛布を持ち出して、ソファの上でぎゅうぎゅうになりながら寝転んで。無言のまま、ひたすら星が流れるのを待っていた。
空はその日に限ってすこし霞んでいて、星がいくつ見えたのかは思い出せない。ただ、毛布すら冷え切った深夜のベランダで、隣にいるひとの体温が愛おしかったことだけ覚えている。

ソファも、毛布もないベランダで、ひとり流星群を待っている。煙草2本分の時間を過ごしてから、温かいお茶を淹れに室内に戻った。

大切だったけど、置いてきてしまったものたち。

#日記 #エッセイ #流星群


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