火事と喧嘩は江戸の華
雰囲気のせいか貫禄なのか、ママやスタッフの女の子たちの相談を受けることが多い。頼られるのはありがたいけれど、チーママでも何でもない。みんな忘れているのだ。私が、夜の仕事は素人で、店に長く居つく気はないただのバイトだということを。
先日ママから、もめそうな案件の仲介を頼まれた。女の子に対して、給料支払う支払わない問題だった。支払いがからむので、その子と同じ立場の自分が切り出すのは筋が違うと言い張った。けれど結局、言葉がきつくてカドが立つからうまいこと言ってくれ、とママから押し切られ、しぶしぶ口火を切る役割を任された。カドは立たなかったけれど、案の定炎上した。なぜ私経由でその話をされるのかわからないと言われ、当然だろうなと思った。
もめ事があると、わかることがたくさんある。そのひとが普段隠している顔であったり、気持ちだったり、性格だったり。当人たちは否定するだろうが、元々もめ事が好きで、何かきっかけがあればもめたい願望を持っているんだと思う。
「火事と喧嘩は江戸の華」という言葉を思い出した。日頃の鬱憤を晴らすための手段として、周りを巻き込んだお祭り騒ぎを味わいたいのだ。そうすることで生きている実感がわくのかもしれない。
ただ、その手段を必要としない人間にとっては、ただのとばっちり。
せっかく換えたばかりのiphone8の画面上で、うんざりするほど罵詈雑言が踊った。ものすごい長文の応酬が深夜から明け方までつづいた。長文すぎて、LINE画面で初めて“すべて見る”という表示を見た。私のLINEはゴミ箱かなぁ、と気が抜ける。未読件数がたまりつづけ、どんよりした気持ちで寝付けなくなり、私まで腹が立ってきた。みんながみんな、プライベートな時間を浪費されたことに対する抗議を主張しているが、誰も私のプライベートを浪費していることに気づいていない。
なんだろうこれ。回る洗濯機を上から覗いている気持ち。汚れものばかりをつめこみ、ネットに入れず、洗剤も柔軟剤も使わず、色ものも白いものも一緒くたにして、ただ回している洗濯機。勢いよく回る水は濁りを増していき、洗濯物はひたすらからまり、お互いをいためつけていく。なんとなく目は離せないのだが、見ているうちに酔ってしまい、気分が悪くなってくる。
もう懲りた。懲りたぞ。仲介役は一切断ることを心に決めた。断って押し切られそうになっても踏ん張る強さが、私には足りない。変なところで気が弱いので、利用されてしまうのだ。
どうせカドが立つことなら、いま立つか後で立つかの違いでしかないし、その時は気が済むまで当人同士でもめてもらえばいいのだ。言い方がキツくてカドが立つ自覚があるなら、なぜ改善しようとしないんだろう。そこらへんはよくわからないけど、とにかく勉強になった。
もらった迷惑料で、あしたは何かうきうきするものを買いに行こう。
いまの洗濯機は、回ってる最中はロックがかかって覗けないようになっている。感覚が昭和の2槽式だな、と書き終えて気づいた。
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