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ゾンビに会える会社

だいだい始業開始10分前に、自分のフロアへ向かう。フロアに着く。その日の第1ゾンビとすれちがう。お手洗いへ行くと、第2、第3ゾンビと続く。部署エリアへ入り、第4だか第5だか、とりあえずゾンビ群に挨拶してPCの電源を入れ、朝礼を待つ。

社風なのか、うちの会社の人は基本挨拶をしない。一応客商売なので、お客様相手のときには皆、普通の人間のように振る舞う。そうでないときは、自分のことで頭がいっぱいの様子で、前から人が歩いてきても認識しない。魂が抜けたような顔をしているか、うつむいて壁をつくり見えないふりをする。通路の突き当りが大きな窓なので、逆光でゾンビみたいに見えるときがある。本物のゾンビには悪いが正直辛気臭い。毎年新入社員が入ってきても、最初は社内中でフレッシュに挨拶してくれていたのにだんだん口をつぐむようになり、先輩を見習ってゾンビになっていく。

私は外部から来た人間なので、挨拶するのは普通だと思っていて、返ってこないことにも違和感があった。挨拶をする私が偉いわけではない。会社の中は常にスピードを求められて、且つ変更に次ぐ変更で、いつも誰もが振り回され追い詰められている。個人のせいではなく、単純にゆとりがないのだ。だからといって無視は悲しいなと思うけれど、いばっている偉い人ほど年季の入ったゾンビなので難しい。

そんな中でもかわらず穏やかなひとたちがいる。笑顔で挨拶してくれたり、ちょっとした立ち話で笑わせてくれたりする。ささやかだけれど、辛気臭い空間の中で、そういう存在は酸素と同じくらい必要でありがたいのだ。ちょっとでも酸素が増えたらいいと思って、私も挨拶を続ける。続ける、っていうのもおかしいけれど、無視されているとやっぱりやめたくなる。でも続ける。疲れているときに「お疲れ様です」と言われて、怒るひとはいないだろう。いたら謝る。あと単に目の前に人がいるのに、挨拶しない方が落ち着かない。

入社して数年経過した今も違和感はあるけれど、見事なゾンビだなぁ、と受け流す方向に慣れた。ゾンビに紛れて、ただの「シャイ」がいることがわかったので、挨拶は楽しい。不意打ちで挨拶が返ってくるとこちらが戸惑う。もはやゲーム感覚だ。その死んだようなツラ脱いで、笑った方がかわいいよ、と思いつつ。

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