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高知県北川村食育レポートー村をあげての味噌作りー

2023年度、かねてより仲良くさせていただいていた高知県北川村から、保育園・小・中学校15年間の「食育」を見直したいとのご依頼を受け、北川村独自の食育をデザインするため毎月高知に通っています。


高知県北川村って?

高知県北川村は、高知空港から車で約1時間の山間に位置する人口1200人ほどの村です。
保育園1園(村営)、小中一貫校1校(村立)、村役場、教育委員会、社会福祉協議会等が全て徒歩圏内にまとまっていて、村に通い始めて半年が経ちますが、各機関の横の連携が深いように感じています。

過日開催された玉ねぎの収穫や芋の苗植えも保育園と社会福祉協議会、村の皆さんの連携が素晴らしかったです。

特に子育て支援や教育においては、0歳から中学3年度までの15年一貫の切れ目のない教育や、少人数制の手厚いクラス運営が実現されているだけでなく、公認心理士の先生が配置されていたり、国による無償化の対象とならない0~2歳児まで保育料全額無償化していたり、そして何より自校給食を守っていたりと、なかなかの充実ぶりです。

「人口1200人の村」と聞くと、すごく不便そうなイメージを持ちますが、北川村中心部から車で10分圏内に小児科や内科、30分圏内に産婦人科を含む総合病院があり、大型スーパーやコンビニエンスストア、温泉施設等も車で10分圏内に充実しているため、特に子育て世代にとってはすごく魅力的な自治体だなと思います。

村の基幹産業は柚子(ゆず)!
この記事を書いている今は柚子の収穫全盛期で、村中が柚子のいい香りで満ち満ちています。朝晩だいぶ寒くなってきたのですが、暖かさをとるか香りをとるかで、今晩窓を開けて寝るかどうか悩むところです(笑)

柚子、ゆず、YUZU!

北川村の柚子の歴史

北川村の柚子の歴史は、遡ること約170年ほど。
安政元年、翌2年と相次いで地震が起こり、江戸から呼び戻された中岡慎太郎が、田畑を立て直し、山に木を植え、ロウを採るハゼとともに柚子を植えることを奨励したのだそうです。
飢餓になると、この山の中で農民が塩を買うこともおぼつかず、味噌や醤油も作れなくなるかもしれない。そこで慎太郎は柚子を塩代わりに防腐や調味料として使おうと考えたとのこと。日陰で育つ柚子を家の裏や山すそに必ず植えることを推奨したのだそうです。今も山すそに柚子の古木が多いのはそのためなのだとか。
余談ですが、新米のこの時期。ぜひとも炊き立てのお米でおむすびを作り、柚子やカボスの果汁をジュッと絞って食べてみてください。おいしいです。

私たちの考える食育とは

一口に「食育」と言ってもその解釈の幅は様々で、何がいいとか悪いとかはないのですが、私たち自身は「食べることは生きることそのもの」だと考えており、特に幼少期にしっかりと食に向き合える環境を整えることで、生きる力を育めると信じています。

難しい料理を作れるようになることや、見栄えのいいお菓子を作ることも素晴らしいのですが、その何歩も手前に、日々の暮らしを支える最低限の煮炊きが無理なくできることを目標にしたいと考えていて、例えばお米を洗ってご飯を炊き、旬の食材をたっぷり使った具沢山のお味噌汁をさっと作る。これだけのことが「苦じゃない」と思えさえすればそれで十分ではないかと思っています。
日々、自分が食べるものをサッと調理して食べられるという習慣は、食べ物を自分で選び取る力を育みますし、加工品や外食に頼らなくてもよいため、より健康的で経済的な暮らしを実現しやすくなります。さらには、料理するという過程で「出来上がりをイメージして→やってみて→確認して(味見)→試行錯誤(微調整)して→ゴールまでたどり着いて(完成)→振り返る(おいしいかどうか食べてみる」といういわゆるPDCAをわかりやすく回せる、しかも1日に3食作るとしたらなんと年間1000回以上も!と、教育的な視点でもこれ以上のテーマはないのでは?と思っています。
旬に敏感になると、「わ!栗が出始めた!」とか「マコモが売ってる!」と日々の暮らしがグッと豊かになりますし、一個だけでも、例えばあの人の作る豚汁が最高に美味しい等、得意料理があるだけでいつも自分の周りにおいしいおいしいと食べてくれる人が集まる、孤独とは真逆のにぎやかな人生を送れることになります。まさにウェルビーイングの要(かなめ)です。

そんなことをつらつらと書いたのが↑こちら。グッドデザイン金賞やグルマン世界料理本アワードのchild部門世界一を頂いたりしました(感謝)。

二十一世紀における我が国の発展のためには、子どもたちが健全な心と身体を培い、未来や国際社会に向かって羽ばたくことができるようにするとともに、すべての国民が心身の健康を確保し、生涯にわたって生き生きと暮らすことができるようにすることが大切である。

子どもたちが豊かな人間性をはぐくみ、生きる力を身に付けていくためには、何よりも「食」が重要である。今、改めて、食育を、生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきものと位置付けるとともに、様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる食育を推進することが求められている。もとより、食育はあらゆる世代の国民に必要なものであるが、子どもたちに対する食育は、心身の成長及び人格の形成に大きな影響を及ぼし、生涯にわたって健全な心と身体を培い豊かな人間性をはぐくんでいく基礎となるものである。

食育基本法

はじめての味噌作り

そんなこんなで、これからの様々な活動の起点とするべく、保育園と小学校、そして教育委員会、保護者さん、そして村民の皆さんという豪華メンバーで初めてのお味噌作りを行いました。

鹿児島にある ひより保育園やそらのまちほいくえんは麦味噌を毎月仕込んでいるのですが、北川村は米味噌文化。
高知県いの町の、このや西内糀店さんの高知県産のおいしい米麹を使い、昔ながらの方法(すべて手作業!)で合計30キロの味噌を仕込みました

味見の大切さ

私たちが食育活動で大切にしていることの一つ「味見!」今日もみんなで何度も味見をしました。
まずはふっくらと茹で上がった大豆。一粒目を恐る恐る口に入れた子どもたちでしたが「おいしい!」と、パクパク味見が止まりません。

次に米麹。栗やさつまいものように甘味が強く、ホクホクとしてとても美味しいのですが、婦人会の皆さんたちも含めて、参加者のほぼ全員が「麹だけの味を初めて食べてみた」とおっしゃっていました。

食べるだけでなく「どんな味がする?」「どんなにおい?」とお互いに言葉に出して味わってみるのは味覚を育てる上でもとても意味のある活動なのですが、麹の香りを「納豆みたい」「レモンみたい」「甘い匂い」、味は「甘い!」「おいしい!」「シャインマスカットみたい!」といろんな声が聞かれ、その度に大人も子どもも「じゃぁ、もう一口、、、うんうん、確かに、、、!」と楽しい時間となりました。

味見が止まりません

私たちが、ひより保育園を開園する前に霧島市のマルマメン工房の増田さん(まっすん)から味噌作りを習った時、「味噌作りを一回やったくらいで、家でも味噌を手作りするようになる人はほとんどいないんだけど、麦(米)と塩と大豆だけで味噌を作るのだと知った人の多くは、スーパーで買い物をする時も裏の表示を見るようになる。」と話を聞いてなるほどと思ったのですが、このように多世代/家族でじっくりと時間をかけて一緒に味噌を仕込むことで、出来上がった味噌を使って料理をしてみたくなったり、具材は何にしようかといつもよりワクワク考えたりする時間が増えるのであれば、それはとても意味のあることなのだと思います。

約2時間!誰一人として集中力が途切れることもなく、振り返りでは「家でも作りたい!」「給食で食べてほしい」「たのしかった!」とたくさんの感想が聞かれました。

今日仕上がった味噌は熟成を待って、給食に使ったり、村のみんなで食を囲むイベントで味噌汁にしたり、熟成具合による味の違いを観察したりと様々な角度から活用していく予定です。

子どもたちも自分が作った、自分だけの味噌を約1キロずつ持ち帰りおうちでも熟成させてみることに。これからの活動がいっそう楽しみになった1日でした。

準備から片付けまで。教育委員会の前田先生にたいへんご尽力いただきました!いつもありがとうございます。


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