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あの日の雪はまだ、たまに降る

北海道では、もう雪が降るらしい。
季節の移り変わりの早さと、日本の広さに驚くばかりだ。

私の住んでいる地方で雪が降ることは、あまりない。
軽く降ることはあるが、積もるということはまずない。
その為、雪が積もった日の出来事は、些細なことでも覚えていることが多いのだ。

忘れもしない、高校入試の日。

母の勧めで、高校は推薦入試を受けることになった。


中学の時に父が亡くなってから、母は、ほにゃほにゃした頼りない私をしっかり1人前に育てようとやや躍起になっていた。

私は、ほぼ100%父似だ。
顔立ちも、趣味も、性格も。
記憶の中の父は、めっぽう母に弱かった。

そして父似の私は…
母にやはり、弱いのだ。
言われたことを、自分の好き嫌いに関わらず、最終的にやっている…ということが多かった。


「とりあえず受けてみるか…」と、正直興味があまりない高校を受験することになった私。
当時勉強は嫌いではなかった。
受験対策はそこそこ、面接対策も学校の指導で行い、なるようになるしか…と、受験当日をあっという間に迎えた。

ゆっくり、ゆっくり、雪が降っている朝だった。

母親から受け取ったカイロは、私の手を温めるには物足りなかった。
かじかんでいるのか、それとも案外緊張しているのか、ペンを持つ手に力が入らない。

書けない…。

寒いから…いや…これは…素直に答えがわからない。

筆記試験の後に面接をしたが、まるで見当違いの受け答えをしたようで、全く記憶に残っていない。 

これは…相当に上手くいかない限り…
落ちた!!!!!

帰りのバスで、受験生達があんまり自信が無い、と話していた。
受かる可能性がゼロだと思っている私は、そんなことを話す余裕すらないんだな…と、朝より勢いの増す雪を窓から無言で見つめていた。

バスから降りる頃、とんでもなく雪が降っていた。
コンクリートのはずの地面は、スキー場のように真っ白。

バスに乗っていた男子学生が「うわ!滑る!滑るとか言ってもうた!落ちたかもしれん!」と言いながらはしゃいでいた。

わたしは落ちた。


その後、別の高校を受験し、なんとか高校生になることができた。高校では部活に入り、私はその地区大会で、友達と再開した。

私が落ちた高校に通っている友達。

友達の部はとてもレベルが高く、正直、遊びでやっている私とは大違い。
格の違いを、高校に入学しても尚感じてしまったのだ。

わたしは、今でも思う。
あの時、合格していたら…

雪が降ると、受験の日を思い出して、センチメンタルになる。







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