【声劇台本】「いるいない」(ホラー)

[ いるいない。 ]
3人、6人用 ホラー

⚠3人声劇にする場合、一人二役で(男+おじ)、(先生+宿泊客B)、(弟子+宿泊客A)の組み合わせにするのがおすすめ。

⚠本編は3幕に別れています。

1幕 飲み屋のヒトコマ
男、弟子、先生の掛け合い。

2幕 おじさんの話
男のナレーション、宿泊客A.Bで進行。

3幕 1人増えてる
男、弟子、先生の掛け合い


【登場人物】
男→成功者。小金持ち的な感じで。お家柄とかすごい系。今回はその中の分家の話みたいな。

先生→いわゆる“そういう系”の仕事をしてる人。男とはたまたま会った。

弟子→先生の弟子。“そういう系”はちょっとだけ分かるぐらい。

おじ→受け多め。歳の割にしっかりしてる

宿泊客A→調子乗り。Bを誘って怖い目にあう。

宿泊客B→Aの言われるがまま。受動的な感じ。が、割と乗り気



〜第1幕〜


「いやはや、本日は先生に頼めて本当に感謝してますよ。いかんせん仕事しか頭にない部下たちで……私含め、みんな”そういうの“に弱いので……先生がいなければ、なかなかどうにもならないものなのです。」

弟子
「ハッハッハ、どうせじぶんは鈍感なんで先生を見てるだけだったんですが、やはり先生の手腕はなかなかですよ!」


「ほうほう、私は見えないし一体何しているのやら……という感じだったのですが、わかる人には分かるものなのですね!」

先生
「君はまたそんなふうに言って、失礼ですよ。すみません。こいつはまだ、仕事になれていなくて、飲みの場も今回が初めてなんです。」


「いやいや、見る人が見たらわかるということでしょう。先生は少し腰が引けすぎているのではないですか。」

弟子
「そうですよ。先生はもっと自分に自信を持つべきです。」

先生
「自分としてはまだまだ精進していきたいところなんですがね。対処出来ない”もの“もありますし。」


「そうなんですか?たしかに先生でも無理な”もの“だったら私にはどうしようも無くなりますよ。」

弟子
「またまたご謙遜を。先生ならばほとんどは簡単に処理できるでしょう。そもそも、そんなやつが近くにいたら私も気づきますよ。」

先生
「あれ?そういえば君には話していなかったかな。私の師匠の話なのですが、強ければ強いほどそういうものは感じられないようになってくるのです。いや、知恵をつけるというのですかね。少し賢くなってくるらしい。」


「……それはそれは。自分では気付かぬうちにとてつもないことをされているかもしれないのですね。まぁ、そこまでになるともうどうしようもないでしょうね。」

弟子
「……先生さすがに怖い話はこの時機に向いてはいないのないですかね。」

先生
「私としては怖い話という訳では無いのですが……すみません。白けてしまったようですね。」


「そんなことないですよ。お弟子さんもそこまで気を使う必要もありませんよ。……でも、さすがに先生だけの話では私も怖いばかりですね。まぁ……あまり怖くないですが、私からもそういう話をしましょうかね。」

弟子
「あれ?そういうものにはめっきりなのではなかったのですか?」


「もちろんです。私自身の話では無いのですがね。おじの話で。これがまたなかなか不思議なんですよ。」

先生
「へぇー。確かおじ様は旅館を経営していたと記憶していますが…そこでの話ですかね。」


「そうですそうです。……ではつまらないかもしれませんがお話させていただきます……」


〜第2幕〜

おじ
これは少し前にあった不思議なことなのだけれど。この旅館では立ち入り禁止の場所がある。

宿泊客A
「ここはなかなかいい所ですね。」

おじ
縁側でそう話してきた、この男が件の場所に入ったのだ。

宿泊客A
「ここの女将さんはなかなか気難しい人らしい。あまり褒めても反応がないのでね。坊ちゃんには言っておこうと思ってね。」

おじ
「ありがとうございます。本日はごゆっくりしていってください。」

宿泊客B
「おいおい、あまり構うなよ君。彼も困ってるじゃないか。どうせ家の手伝いでここにいるだけだろう?」

宿泊客A
「そうなのかい?それだと、だいぶん困惑させてしまったかな。すまないね。」

おじ
「いえ、長男なので家を継ぐものとしてお客様にそう言って貰えるのはうれしいです。」

宿泊客A
「そうかそうか。それはよかった。あと、話があるのだが………例の蔵について。」

宿泊客B
「やい!こら。」

おじ
「申し訳ありません。それについては答えられません。それとこの話は母の前ではしないようにお願いします。」

宿泊客B
「……本当に申し訳ない。気を使わせてしまって。別に気になると話していただけなんだが、こいつは全く……」

宿泊客A
「お前のように気を使わせる方がダメだよ。気になることはこういう時に聞いておかなくちゃ。逆に好奇心が働いて悪い方になるよ。」

おじ
「もちろんです。そののことには答えられませんですが、聞きたいことがあれば今質問されて構いませんよ。」

宿泊客B
「はぁ……分かりました。ただ自分が不可解に感じたのはそこだけで。あとは女将さんが全て話してくれてますし。いい宿すぎて逆に困ってしまいますね。」

宿泊客A
「確かにそうだな。そこだけなんだがな。」

おじ
「申し訳ありません。本当にお話できないのです。それに私も詳しくはあまり知らないのです。」

宿泊客B
「そうだったのか。それにしても随分長い間話してくれているけど大丈夫かい?聞いてくれてありがとうね。これ貰って行ってくれ。サービスってやつだ。」

おじ
私はその時にもらったチョコレートが蔵についての口止め料だということは私には分かるはずもなかった。

宿泊客B
「おい!結局あの後奥さんに怒られたじゃないか。」

宿泊客A
「そんなこと言ったって、やはり好奇心が勝つじゃないか。それに彼を買収したんじゃなかったのかい?」

宿泊客B
「あれぐらいしっかりしていても………いや…やっぱり口止め料って言うには無理のある渡し方だったね。」

宿泊客A
「まぁ、奥さんにもバレたが乗り込むしかないかぁ。ここまできたし。」

おじ
「(……まずい)」

宿泊客B
「そうさね、せっかく蔵まで来たんだから入らないともったいないね。」

おじ
そう言って彼らは戸を開け、蔵の中へ入っていった。ちょうど用を足しに来た私はその様子を見てしまった。元々私の起こしたことだ。そう思い、母へ言いに行くことにした。母に報告すると案の定怒鳴りつけられ、私は彼を連れ戻すよう言われた。母はなにかの支度をしていた。蔵に向かうその道中、

宿泊客A
「うっうわぁぁぁ!」

おじ
という彼の叫び声が聞こえた。急いで向かうと

宿泊客A
「ひぐっ……ハァ……嘘だなんで…ハァハァ……こんなはずじゃ…………ハァハァ……ヒッッ」

おじ
と腰を抜かした彼がなにかドロドロの液体で包まれていた。

おじ
「大丈夫ですか?」

宿泊客A
「ヒィッ……やめろ…くるなくるな……こっちに来るな……ハァハァ……」

おじ
慌てる彼を落ち着かせるのに小一時間ほどかかった。私はその後彼を母に預けた。母の準備も相当かかっていると思ったら何やら儀式の準備をしていた。
あの宿泊客の怯えた顔は今でも忘れない。


宿泊客A
「昨日はすみませんでした。……君も迷惑かけてすまなかった。」

おじ
「大丈夫ですよ。もう落ち着きましたか?」

宿泊客A
「このとうり、奥さんにお祓いしてもらってね。もうすっかり元気さ。」

おじ
「それはよかったです」

おじ
このとうり結局その客も元気になって大事にはならなかったのですが、あの蔵には未だ近づけていません。理由は母のあの時の剣幕が普通じゃなかったこと、なにか気がかりなこと。そしてもうひとつ。その蔵から弱々しくではありますが、女の声がときたまに聞こえることです。


〜第3幕〜


「どうでしたかね。けれどおそらく作り話でしょうね。テンプレというものに沿ってる。」

弟子
「いえいえ、テンプレでも充分怖いですよ。それに、そこの旅館確か老舗の所ではなかったですか?妙に信憑性が高いですね。」


「そうなんですよ、親族の集まりでよく話してもらっていて。使い回しでも酒のつまみになるんです。」

弟子
「確かに、程よく怖くて酒が進みますな。ところで先生としてはこの話しどう……って、先生!大丈夫ですか?」

先生
「……いやっ…まぁ…………あぁ。大丈夫です。」

弟子
「だいぶん酔ってるんですかね。それにしてもまだ1杯目ですよ?」


「大丈夫ですか?難しいならここらでお開きにしても…………」

先生
「……い…いえ大丈夫です。別に酔っているわけでは……ないので……。」

弟子
「そうですよ。こんなので酔っていたら、これから飲みに行くのは私の出番になってしまいます。お願いしますよ〜先生。」

先生
「あ……あぁ…分かった。……ところで、さっきの話、君は変に思わなかったのかい?」

弟子
「……?変?変ってどこか変わったところでも気づいたんですか?」

先生
「…………っ。そう…………ですか。分かりました。いえ別に少し気になった程度なので………。」

弟子
「えー?なんですか、気になりますよ。」

先生
「いえ、ほんとに気にかけることも無いものですよ……」


「先生、私も聞きたいです。はぐらかさないでくださいよ。そんなに言っていると、気になって仕方がないですよ。」

先生
「えっ……あぁ……いえ。すみません、でも……」

弟子
「でもじゃないです〜!話してください!」

先生
「……分かりました。さっきの話なんですが、旅館に泊まっていた宿泊客、話の途中で1人いなくなっています。」

弟子
「え?それはどういう?」


「は?ハァ……え?ご……ご冗談でしょう?」

先生
「さっきの話の中で1人、文字どうり『消えて』いるのです」


「…………先生。」

弟子
「……さすがに、それは興ざめですよ。ご冗談にしても。」

先生
「いえ、本当です。いや、信じてくれなくて構わないです。これ以上は知る必要も無いし、私としても知りたくもない。」

弟子
「……酒の席で盛り上がる話は先生には苦手なようですね。さすがにこんな冗談は通じませんよ、、、ねぇ?」


「…………先生と、、全く同じことを話していた男が親戚の集まりでいました。……いえ。独り言です。」

一同
「………………。」

弟子
「…………まっ…まぁ呑みましょう!そんな気味の悪いこともう気にしなければ大丈夫です!」

先生
「そうです……!気にしなくていいのですよ。」


「そっ……そうですね…………。ではおめでたい話を。」

弟子
「おっ。いいですね。」


「いや、同じおじの話なんですがね。今月、子供が生まれたんですよ!」

先生
「おぉーっ……おめでたい!」


「おじも喜んでいましたが、『2人も増えたらそろそろ旅館経営だけでは大変になってくるんだ』と話していまして……」

弟子
「おっ。双子さんですか。それはおめでたいですね!」


「先生!お弟子さんはだいぶん酔っているようだ。双子になると1人多くなってしまいますよ!」

弟子
「……は?」

先生
その後ほどなくして、私たち2人の血相が変わったのは言うまでもない。

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