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練馬のBボーイになれなかった或る男の遠吠え

彼女いない歴=年齢の俺は、よくこんなネタをTwitterで呟く。
・インスタグラムは身体に悪い。なぜなら、友人たちが自分の子どもをアップばかりしているからだ。お前らラーメンの写真は撮らなくなったのか。
・居酒屋での会話が変化してきている。友人たちが結婚生活について話している間、俺は仲間外れになる。
一応、これらはネタ7割、悲しみ3割で書かれているため、実際はそこまで絶望を感じているわけではない。しかし、ある番組を見て自分がいかに進歩がないか思い知らされた。
その番組は、6月15日(水)に放送された『家、ついて行ってイイですか?』だ。『家、ついて行ってイイですか?』はテレビ東京(俺をお祈りしたキー局。マスコミ就活経験者の俺は通ぶってTXと呼んでいる)のドキュメントバラエティで、終電を逃した人にタクシー代を払う代わりに密着取材をさせてもらう番組である。
素人の様々な人生を垣間見ることができる面白い番組で、俺は必ず録画している。
『家、ついて行ってイイですか?』を視聴している俺は、大体が他人の人生を「ふーん。そういう人生もあるんだな」と自分に無関係な出来事として楽しんでいた。しかし、前述した6月15日(水)に放送された『家、ついて行ってイイですか?』の「3分で人生変わった練馬のBボーイ 一世一代の大決断!」と題された密着映像は、俺の人生がなんと貧しいものかと考えさせる内容だった。

内容は2部構成になっている。前半は、練馬のBボーイ風の恰好をした青年(22)を密着取材する。ここで彼が、大学を中退し、居酒屋で料理をつくっている正社員だと自己紹介したり、なぜ料理人になったのか語ったり、ラップを披露したりする。前半は、3枚目だけど優しくて面白い彼の生活ぶりを大いに楽しめる。そして俺も彼女がいない彼の退廃的な生活ぶりに共感をしていた。
後半は、6年後の話である。つまり、前半の密着映像から6年の月日が経ってから再度密着取材をした内容だ。22歳から28歳になった彼の状況がどんなものか、俺は楽しみにしていた。年齢が同じであり、生活の仕方も自分と重なる所がある。
しかし、その楽しみは彼の家が映し出された瞬間に打ち砕かれた。期待していた同士感(勝手に非モテ認定し、仲間だと感じること)は消え失せた。やけに整頓された調度品、彼の清潔感のある風貌(Bボーイの恰好から和装に変化)、これだけで俺は「こいつ女いるな」と理解した。その後、彼は番組スタッフにプロポーズしたい(同棲している)彼女がいると語る。んじゃプロポーズしましょうということで番組が密着取材する。最終的には、東京タワーでプロポーズをして成功。キスして終わり。かなり省略したが、婚約指輪を買うまでの過程やプロポーズの場面は面白いし感動する。しかし、俺がnoteで伝えたいのはそこではない。

あの練馬のBボーイが結婚しているのに、なんで俺はいまだに彼女すらできないんだ、ということだ。練馬のBボーイと俺の6年間の差を考え始めたら、夜も眠れない人間になってしまった。彼は料理人を辞めて建設現場の監督になっているし、小竹向原から中野へ引っ越ししているし(おそらく同棲のため)、可愛い婚約者(小動物系でかわいいのが俺の怒りの原因の1つ)ができている。
一方で、俺は実家暮らしで、仕事は変わらず、彼女もできていない。この放送を見る前から俺は周りの人間と違って変化に乏しい人間だと、インスタグラム等で認識はしていた。しかし、練馬のBボーイの密着取材映像は、より切実に悲惨な事実を押し付けてきた。例えていえば、俺の身体を侵略してきた感じである。
ただ、俺も馬鹿ではない。理由は分かっている。行動していないからだ。練馬のBボーイは彼女に10回以上デートの誘いをしているし、彼女と生活の時間を合わせるために転職もしているのだ。
彼女ができないことより、行動できない自分が嫌で泣きたくなるのだ。

あーあ、やっぱり行動なんですよ。「イケメン以外は行動せよ」という当たり前の事実を改めて思い知らされたね。

ただ、酔っぱらった時だけラインで異性に通話しだすのはキモイ行動だからな俺。

彼は青天白日の下に、尋常の態度で、相手に公言し得ることでなければ自己の誠でないと信じたからである。酔いと云う牆壁を築いて、その掩護に乗じて、自己を大胆にするのは、卑怯で、残酷で、相手に汚辱を与える様な気がしてならなかったからである。 

夏目漱石『それから』


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