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「字」は見られている感慨から、お姉様の格が変わる瞬間

3月某日、僕はクリーニング屋さんに居た
預けていた冬物のアウターを4着受け取りに来たからだ

見た目50代の女性が一人で回しているクリーニング屋さん
僕はこの女性店員さんに良い印象を持っていて、心の中で"おねえさま"と呼んでいた(詳細は省くが)

僕の前のお客さんが接客を受けていた
お姉様がお客さんに問う
「携帯番号の下2桁は03?63?」

憶測になるが
このお客さんは初めての来店で、会員カードを作る際に携帯番号を登録しているのだろう
お姉様は、数字の"0"か"6"かどちらか読めなかったようだ

この会話を聴いていて僕は大学時代を思い出す
大学2年生の最後、入るゼミを決める時のことだ

自分がどのゼミに入りたいのか
どのような研究をしたいのか
それらを10行程度書いて提出する

僕は運良く希望通りのゼミに入ることができた
ゼミに入った後、担当の先生がこんなことを言っていた
「私はね、研究内容よりも字の丁寧さを見て選ぶんですよ。字が綺麗な人だと、きっと性格も落ち着いてる人なんだなと思いますので。ウフフフフ」

小学生の時に「これ意味あるんかな?」と思いながら通っていた習字教室
意味あったじゃん
お母さんありがとう
習字の先生ありがとう、急に辞めちゃってごめんね(詳細は省くが)

今僕の目の前で正確な文字は何か問われているお客さんがいる
役所の書類や医療機関の問診票、未だに手書きで書くことが多い
字が綺麗だと「これで合ってる?」などと問われる手間も省けるし
ついでにゼミも通るのか(あわよくば)

前のお客さんの対応が終わり僕の番になった

受け取り票を渡すと
お姉様は慣れた足取りで多くの洋服が吊るされた間を歩き、店の奥へ行く

なかなか見つからない
お姉様は何かぶつぶつ言いながら僕のアウターを探している
1分後くらいに
「エコバッグじゃないよね?」
と店の奥から声が聴こえた

僕が出したのはアウター4着だ
いや、そもそもエコバッグってクリーニングに出すのか?
そんな季節ごとにエコバッグ洗濯して楽しんでる奴がいるのか?
だいぶ優雅だな
そんなことはどうでもいい

「いや、僕が出したのはアウター4着ですー」

「そんなの分かってるわよ!!」
何故か怒鳴られた

僕は訂正しただけなのに
このババァ…

この時点でお姉様はババアへと転生した

ババアの気に触れることをした覚えはないが、僕はきっと舐められてるんだろう

何故…
僕がちょっと猫背だからか?
字は綺麗でも姿勢が悪かったらこんな理不尽に言われるのか
猫だって理不尽だと思っているはずだ
たまたまその骨格で生存してきただけなのに、猫背という言葉に詰め込まれ
たまたまその舌で生存してきただけなのに、猫舌という文字に参加させられ

字は綺麗でも、姿勢が良くないだけでこんな理不尽な目に合うのん?
ねえ教えてよスコティッシュフォールド

クリーニング屋さん変えようかな

借りてきた猫のように、僕は店を後にした

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