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【エッセイ】焼いたししゃも、上から食べるか、下から食べるか

某映画のタイトルをもじったのでよくわからなくなったが、つまりは、ししゃもを頭から食べるかしっぽから食べるかという問題である。

好きな方から食べろと言われればそれまでなのだが、この問題はそう簡単に済まされるものではない。
なぜなら、ししゃもの食べ方一つで、得られる能力が変わってくるからだ。

ご存じの方も多いだろうが、ししゃもの食べ方には、あるジンクスがある。

頭から食べると頭が良くなる、しっぽから食べると足が速くなる、というものだ。

頭と決めて食べる人もいれば、逆もまた然り。
その人の目指すもの、欲するもので違うのだろう。
つまり、ししゃもの食べ方一つで、その人の人生が見えてくるのである。

さて、私はというと、人生のその時々で食べ方が違った。
思えば、ししゃもの食べ方が変わった時、私の人生も小さな転機を迎えていたのである。

○小学1年生〜2年生
初めてししゃものジンクスを知ったときの私は、
「頭一択だろう!!!!!」だった。
運動はからきしダメで、せめて勉強では、とテストで100点を目指していた私にとって、頭の良さというのは喉から手が出るほど欲しかった。
それをししゃも一つで簡単に手に入れられるだと!?そんなら、100匹だって食べてやらあ!という心持ちだったのである。

○小学3年生〜4年生
全く運動ができなかった私は、バドミントンのスポーツ少年団に入った。それがまあきつい。だが、あれよあれよと体力がつき、持久走大会で後ろから3番目くらいだった私は、3年生の時には一気に6位まで上り詰めた。
さあ、ししゃもをどっちから食べたか。
無論、しっぽである。もっともっと足が速くなって成長を実感したかった。

○小学5年生〜6年生
ついにどちらも欲しくなった。
足は速くなりたいし、勉強だって、クラスで1番になりたい。何事においても負けたくなかった。
ししゃもが2本出た時はまだ良い。一本は頭から、もう一本はしっぽから。
だが、問題は3本出たときだった。残りの一本をどうする。頭か足かどっちに全振りする!?

どうにも悩んだ挙句、私は腹からかぶりついた。これでどちらも手に入れられる。
今思えば、ジンクスといえど流石に無理があった。腹の調子は良くなかったかもしれない。

○中学生
中学以降は、そんなジンクスなどどうでも良くなった。頭も足も、結局は自分の努力で手に入れるしかないんだ。ししゃも一本でどうにかなるものでもなんでもない。そんなリアリズムに侵され、無心でししゃもを食べる日が続いた。

○高校生
高校もそうだ。受験という地獄が待ち受ける3年間に、ししゃもに心を割く余裕などない。大学合格に導くのはししゃもではない。日々の過去問演習だ。
ししゃもはただの魚として認識し、無心で食べた。

○大学生
大学に入ると熾烈な競争社会ではなくなり、頭も足もどうでもよくなった。足が速い必要なんてこれっぽっちもない。山手線につながる階段で到着メロディを聞いても、そこから余裕で車内に駆け込める足の速さがあれば十分だった。
完全にししゃもは酒のつまみになった。

そして、今。
今夜、家でししゃもが出た。
「腹減ったー」と一匹をつまんで無意識に食べる。
頭からだった。
頭が良くなりたいなんてもう思わない。仕事でミスしなければなんでもいい。
それでも頭から食べた。その方が一口目の食感に厚みがあって美味しいから。そんな理由で。

さて、ここまでどうでも良いししゃも談義を繰り出してしまったが、ししゃもの食べ方一つで、私の人生のその時々がどうであったかを説明できる気がした。

焼いたししゃも、上から食べるか、下から食べるか。
どんな人生を歩んできたのか聞くよりも、よりカジュアルにその人を知ることができるかもしれない。

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