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【番外編】俳句甲子園での岸本尚毅さんのスピーチが示唆に富んでいた件

8月24日、25日、松山にて俳句甲子園が開催されました。選手の皆様、審査員の皆様、スタッフの皆様、本当にお疲れ様でした。
私も合間を見ながら、ライブ配信を拝見させていただいたり、事後アーカイブから拝見させていただき、選手の皆さんの思いや審査員の皆さんの句を正々堂々審査しよういう熱量に感動いたしました。
最後の岸本尚毅さんの審査員を代表しての総括のスピーチをされていたのですが、これぞスピーチの模範例では、というほど、とても示唆に富んでいたので、今回はそちらについて書いていこうと思います。

まず前提条件として、

・24日、25日と朝から夕方までずっと俳句について鑑賞がされており、つづいて表彰式が行われ、参加者や来場者は現場に座りっぱなしだったこと。
・総括のスピーチの前に、最優秀句についての講評が、岸本尚毅さんからされていたこと
・最後の最後のスピーチだったこと。
(俳句甲子園の詳しいルールは俳句甲子園のページを御覧ください)

があり、スタッフも含めて、全ての人が満身創痍な状態であったことが想像されます。この状況のもとで、スピーチをされていました。(アーカイブでは9:48:04よりご覧いただけます。)


参加者との距離を縮めるフック

岸本尚毅さんは、総括を語る前、「講評に力を使い果たしたので、マックのクーポンのうらに書いたこと参照しながら、述べたいと思います」と、実際にマックのクーポンを持ちながら、おっしゃっていました。

まず自分自身の状況を説明しておくことで、参加者に気軽に聞いてほしいという意思表示をしていること、また高校生もよく利用するであろうマクドナルドのクーポンを持ち出したことで、先生が高校生と同じような、身近な存在である、ということを意思表示されていたよに感じ取れました。
(後半、まったくメモを参照していなかったところも、個人的にはよかったです。)

選手からよく聞かれた感想に触れながら話す

話の冒頭に、選手からよく聞かれた感想について話されていました。この話題は会場にいる全ての人にとって共通の話題であって、誰もが「うんうんそうそう」とわかるものでした。この部分も、聴衆が岸本さんの話に耳を傾けようという工夫がされていたと思います。

はじめに結論を話す

スピーチの基本として、「はじめに結論を話す」ということがありますが、こちらも岸本さんはされていました。先の選手からよく聞かれた感想を踏まえながら、

「俳句甲子園というような場は、日本の古くから行われた場である」

と、岸本先生が一番伝えたいことを述べています。これに基づいて、先に挙げられた感想が根拠として話が展開されていました。

スピーチのフレームとして、

◯◯は✕✕あると思う。
なぜなら、
1番目の根拠
2番目の根拠
3番目の根拠

のような形がありますが、岸本さんの場合、先にあげた選手からよく聞かれた感想を根拠にされていました。

「Aである」「Bである」「Cである」ということがきかれた。
私がおもうに、
「俳句甲子園というような場は、日本の古くから行われた場である」
例えば、「Aである」については~

のようにスピーチが展開されています。このように話題が繰り返されることで、内容に置いてけぼりにならないように配慮されている印象を受けました。

根拠となる事例を話す

スピーチの展開の中で、岸本さんは「俳句甲子園というような場は、日本の古くから行われた場である」という事例を、先に挙げた選手からよく聞かれた感想をもとにしながら、話されていました。(何も資料を見ないで、年号や人物名、書物名がすらすらでてくるのは、まさに岸本尚毅さんという感じで、ほんとうにすごかったです……)

それぞれの感想が、過去の詩歌の現場でもあった事柄だと補強することで、自分たちが今していることが、今だけのことだけではなくて、日本の古くから、連綿と続いている歴史のなかの出来事なのだ、という気づきや発見につながっていたと思います。

ねぎらいを述べる

また、岸本さんは過去の事例を引用しながら、ご当地のお弁当が昼食に出たことに触れ、運営スタッフに対してもねぎらいの念を示していました。
このことも、唐突に労いの念が挟まれるのではなくて、過去の事例を次々に踏まえながらされていて、スピーチ全体のフレームが損なわれない配慮がありました。

これからについて述べる

今年が、高濱虚子(会場となる松山市出身の俳人)生誕150年という節目であることに触れ、次の節目が生誕200年であることを述べ、その50年後まで俳句甲子園が続いてほしい、俳句甲子園が終わっても、スタッフだったりボランティアだったり寄付だったりで、俳句甲子園と関わってほしい、といったことを述べて、締めています。
このときに、参加者の高校生の50年後という想像できないものに対して、「50年後といえば、夏井いつきさんや小澤實さんと同じ年齢です」と眼の前にいる審査員に触れていて、50年後の僕たち、私たちの姿を想像させやすくしていて、高濱虚子生誕200年という節目が非現実的なことでないことをうまく提示されていて、言葉の斡旋のうまさを感じざるを得ませんでした。

残り時間を述べる

スピーチの後半、「後1分程度で締めます」と発言されていましたが、おそらくこちらも会場の空気を察して発言されていたのではないでしょうか。

総括のスピーチは決まって長い、と思っていると思うので、このように残り何分であると具体的に話されると、その時間は聞こうかという気分になります。このあたりのスピーチの運び方も非常に慣れている印象があり、うまいなやり方で、にくかったです。(実際に、この発言をしてから、約1分30秒後にスピーチが終了しました。)

その他にも、要所要所で細かい笑いをいれてらっしゃったりしていて、聴衆を最後までひきつけようとする工夫が随所にされていました。
本当に名人芸というか、これがスピーチの上手い人だ、という要素がたくさんあって、俳句甲子園の場を離れて、大変勉強になった時間でした。

俳句甲子園
https://haikukoushien.com/


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