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衛星コンステレーション計画における光害問題-衛星事業による天文への影響についての懸念-

  近年はSpaceX社が現在も進めている「Starlink」のような、数百から数万機という大規模な「衛星コンステレーション」計画が増えてきています。衛星コンステレーションとは、特定方式の衛星を大量に打上げ、それが一つの群れとして強調し合ってミッションを行うシステムのことです。近年はFalcon9のような安価で大型の民間打上げロケットが登場して民間企業が小型衛星事業に参入しやすくなったこともあって衛星コンステレーションは広がりを見せています。

 しかし、衛星コンステレーションは太陽光が機体に反射して夜空で明るく光ってしまう「衛星フレア」という現象を多数引き起こし、それが天文台やアマチュア天文家による天体観測の支障になっています。実際にStarlinkによる天文活動への支障は既にいくつか報告されており、それは2020年11月現在も続いています。後述する文書の中では触れられていませんが、衛星の通信電波による電波望遠鏡への影響も近年懸念されていて、こちらも考えなければいけない問題となっています。Starlinkは現在「サンバイザー」を装備するなどの実験が行われていますが、未だ衛星フレアや電波問題への対策が十分ではないのが現実です。更に言うと、今後打ち上がる別のコンステレーション衛星にも同じような対策が施されるのかも定かではありません。

 各社の計画通り将来的に数万規模の衛星コンステレーションが完成したとすると、その天体観測への影響は計り知れません。一方で衛星コンステレーションによる通信や観測の需要が高まってきているのも事実ではあり、慎重な考えが必要です。

 私共としてもこれは新しい時代の環境問題であると考え、冷静に考えていくべき問題であると考えています。


 以下は2020年1月に学内講義の中でHIU宇宙研代表が発表した、SpaceX社やOneWeb社などが進める衛星コンステレーション計画に対する懸念を表明した文書です。これからの宇宙開発と天文における重要な課題になると思いますので、遅ればせながらこちらに掲載します。2020年初めの文書になるので、少し情報が古いかもしれませんがご了承ください。


衛星コンステレーションについて

  2019年5月24日、米・SpaceX社は世界中にインターネット接続サービスを提供するための「Starlink」超小型衛星60機の打ち上げを行った[1]。このように多数の衛星が協調して機能する衛星網を「衛星コンステレーション」といい、特に通信衛星においては地球の広い範囲をカバーできる、高速・低遅延の通信を実現できるというメリットがある。その一方で、Starlinkを含む超小型衛星のほとんどは低い軌道(LEO)に投入されるため、衛星に搭載されているソーラーパネルに太陽光が反射して地上からもその反射光が見える「衛星フレア」が起きるという問題がある。この衛星フレアは天文に大きな影響を与え、普段の天体観測に大きな支障をきたす。既にStarlinkの衛星フレアは米国アリゾナ州にあるローウェル天文台で確認されており、国際天文学連合は、Starlink等の巨大衛星群による天文観測への懸念を表明する声明を2019年6月3日に発表した[1]。この衛星コンステレーションによる問題はどのように解決されていくべきだろうか。


衛星フレア問題の過去の例(イリジウム衛星)

  これらの衛星による地上への影響において最も近い事例で参考になるのは、現在も運用中の衛星コンステレーション計画「イリジウム衛星」だ。イリジウム衛星は合計66機以上の衛星がLEOを周回する巨大な衛星コンステレーションで、イリジウム衛星に搭載されている反射率の高い平面アンテナによって起こる衛星フレアである「イリジウムフレア」は、数ある衛星フレアの中でも特に目立つものだった。しかしイリジウム衛星の発展機であるイリジウムNEXTはアンテナの素材変更によって太陽光の反射率が下がり、衛星フレアによる地上への影響が結果的に少ない衛星となっている[2]。2019年にはイリジウム衛星のすべてが置き換えられ、イリジウムフレアが見られることも殆どなくなった。


SpaceX社のStarlink衛星について

 Starlinkによる衛生フレアも機体に使用されている素材の性質が原因であり、また衛星フレアは太陽光が反射しやすい素材が地球上から確認できないと起こらない現象である。SpaceX社CEOのイーロン・マスク氏も「重要な天文観測が行われている間、太陽光の反射を最小限にするために衛星の姿勢の調整が必要なら、これは簡単にできる(If we need to tweak sat orientation to minimize solar reflection during critical astronomical experiments, that’s easily done.)」と説明した[3]。3度目のStarlink打ち上げである1/7分の衛星の中には、太陽光の反射率を抑えるための暗色塗装の試験を行う衛星が1機含まれており[4]、打上げ側による衛生フレアの対策も徐々に進みつつある。
 しかしSpaceXは詳細な衛星軌道の公表などはまだ行っておらず、先述したイーロン・マスク氏の発言通りの衛星の姿勢変更が行われるかどうかも定かではないのが現状だ。機体自体の暗色塗装を施したとしてもソーラーパネルの太陽光反射を最大限抑えることができるわけではなく、衛星フレアの影響を抑えるには、イーロン・マスク氏の発言のように必要に応じた衛星の姿勢変更や軌道変更が必要である。しかしイーロン・マスク氏はこれらの衛星フレアの問題を理解していながらも、「大気の減衰がひどいため、とにかく望遠鏡を軌道上に持っていく必要がある(We need to move telelscopes to orbit anyway. Atmospheric attenuation is terrible.)」と、暗に天文側への宇宙望遠鏡による解決を示唆するコメントも残している[5]。しかし世界中では既に2027年建造予定の大型望遠鏡「TMT」を代表する地上望遠鏡計画が進められており[6]、先のブラックホール発見のように天文学は宇宙望遠鏡だけで成り立つものではないのが現状だ。


衛星事業と天文の今後

 これらの衛星フレアによる問題はStarlink衛星に限った話ではない。今後行われる衛星コンステレーションは多数あり、Amazon、OneWebといった大手会社が数千機、数百機規模の衛星コンステレーション計画を打ち立てている[7]。衛星コンステレーションによる衛星フレアは天文学にとっては深刻な問題であり、それによる衛星事業と天文学との対立も考えられる。同じ宇宙を舞台とする衛星事業と天文学は、宇宙望遠鏡や惑星探査のように協力も多く、両者の対立は宇宙業界全体から見ても望ましいものではない。お互いが片方のみに解決策や責任を追及するのではなく、協力関係を築いてより現実的な解決策を探っていかなければならない。


出典

[1]国立天文台「通信衛星群による天文観測への悪影響についての懸念表明(2019/7/9)」 2020/1/12閲覧
https://www.nao.ac.jp/news/topics/2019/20190709-satellites.html

[2]マイナビニュース「さよならイリジウム・フレア・イリジウム衛星の第1世代機がすべて退役 鳥嶋真也(2019/12/9)」 2020/1/13閲覧
https://news.mynavi.jp/article/20191209-935498/

[3]2019/5/27のイーロン・マスク氏によるツイート 2020/1/12閲覧
https://twitter.com/elonmusk/status/1132902372458418176?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1132902372458418176&ref_url=https%3A%2F%2Fwww.newsweekjapan.jp%2Fstories%2Fworld%2F2019%2F06%2Fpost-12259.php

[4]nature.com「SpaceX tests black satellite to reduce ‘megaconstellation’ threat to astronomy -Alexandra Witze(2020/1/9)」 2020/1/12閲覧 
https://www.nature.com/articles/d41586-020-00041-4

[5]2019/5/27のイーロン・マスク氏によるツイート 2020/1/12閲覧
https://twitter.com/elonmusk/status/1132897322457636864?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1132897322457636864&ref_url=https%3A%2F%2Fwww.newsweekjapan.jp%2Fstories%2Fworld%2F2019%2F06%2Fpost-12259.php

[6]国立天文台「地上望遠鏡の展望 林正彦(2017/3/12)」 2020/1/12閲覧
http://www-utap.phys.s.u-tokyo.ac.jp/astrosympo-201703/presentation/Session4/hayashi.pdf

[7]日経XTECH「アマゾン・スペースX・ソフトバンクが開発競う「低軌道衛星」の潜在力 外薗 祐理子(2019/7/10)」 2020/1/12閲覧
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00001/02545/

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