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書評_俺は誇りもなく_かわりに絶望もないこの稼業を今後も続けるつもりである_転職は思いつかない__ハード_ルーズ

【書評】俺は誇りもなく、かわりに絶望もないこの稼業を今後も続けるつもりである。転職は思いつかない。『ハード&ルーズ』
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狩撫麻礼の追悼本『漫画原作者・狩撫麻礼 1979-2018 《そうだ、起ち上がれ!! GET UP . STAND UP!!》 』を読んで、まんまと沼に入り込んでしまった私。何十年振りかに狩撫麻礼原作の漫画を、まあまあ大体昔読んだ順に読み出した。
まず、『青の戦士』だが、これは大分前に書評を書き上げ済みだ。
続くが本書。画はかわぐちかいじだ。
劇画で私立探偵の話と言えば、拳銃バンバンのバイオレンス物が想起されるが、本作は趣きがかなり異なる。

主人公は一匹狼の私立探偵、土岐正造。かつてはボクサー志望であり、それ故に昨今の根性無しのボクサーに悪態をつきながらも、ボクシングへの愛を捨て切れない男である。
「リングの他に行き場所がなかった者にしか、断じてボクサーになる資格はねえんだ!!」

そんな探偵への依頼事の数々は、毎回なかなかにユニークだ。
ある男と友達になって、頃合いを見計らって依頼人の指定した場所で偶然の様にある女と出会わせて欲しい。
通勤電車で毎朝見かける男との愛のキューピット役を頼んできたハイミス。
旅回りの熟年ストリッパーへ、赤いラメのハイヒールを渡しに行く役回り。
かつて土岐も憧れていたボクサーの、落ちぶれと妄想と暴挙との格闘。
グレてしまった娘が、心底カスなのか、それともいくらか救いのあるただの反抗期の娘っ子なのかを見極めて欲しい、という極道者。
依頼者、若しくは調査対象、その他諸々が各々に抱えるモチーフとの一時の遣り取りの中から浮き出てくる人間の心理。それは愚かさや誠実さ、清々しさだったり様々である。
そしてそれらに感動する土岐のキャラクターが、結局は読者の心も揺さぶるのだが、そこには狩撫麻礼自身の姿が投影されている様にも思える。
ハード&(で)ルーズな一人の探偵の日常を綴る物語。
1983年に始まった雑誌連載は1987年まで続き、単行本は全七巻と、狩撫麻礼にして最初の長期連載となった。



ハード&ルーズ
作者: 狩撫麻礼、かわぐちかいじ
発売日:1984年5月19日
メディア:単行本

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