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國光宏尚著「メタバースとWeb3」

本書は、モバイルゲーム会社「gumi」の創業者で、Web3領域に特化した企業への投資を行っている実業家の國光宏尚氏が、インターネット上で、始まり始めた「ゲームチェンジ」(メタバース、Web3)について、記した書籍である。
 インターネット(Web)の歴史は、Web1.0、Web2.0、そして、次に来るであろうWeb3.0に分けることが出来る。Web1.0は、1990年から2004年ごろ。Webを一般の人々が使い始めた黎明期。接続に使うデバイスはPC、扱われたデータはテキスト(文書)が主体、データの処理は大型サーバーが行い、ユーザーは、Internet Explorer、Yahoo!、Googleといった検索エンジンを使ってWeb上の情報を閲覧するのが主な使われ方だった。Web2.0は、2005年から2020年ごろ。2007年にAppleからiPhoneが発売開始。GoogleからはAndroid OSが公開され、接続に使う主なデバイスはスマホに移行する。また、この時期、Facebook、Twitter、その後、Line、Instagram、TikTokと言ったSNSが急成長。データ処理の主体はクラウドへ移行する。ユーザーは、SNSを主体とした、書き込み(個人の情報発信)が可能になり、ユーザー参加型ソーシャルWebの時代となる。GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)は、スマホファースト、ソーシャルファースト、クラウドファーストで、既存のデバイス、サービスをアップデートし、Webの利用範囲と規模を大幅に拡大した。これに伴い、GAFAMは、わずかこの十数年で、この5社で、日本企業全ての株価の時価総額を上回るテックジャイアントとなり、巨大プラットホーマーとして君臨しているのが現在である。
 筆者は、Webの世界は、今後、新たなテクノロジーの融合によって「大変化」が起こり、リアルが”主”、バーチャルが”従”だったものが、バーチャルが”主”、リアルが”従”の「バーチャルファースト」への移行が起こると示唆している。その、主な技術ドライバーとなるのが、メタバース、ブロックチェーン、AIと述べている。これらは、過去からあり、発展を続けている技術であり、これらの技術の本格的な社会実装の開始を前に、この新たなWebの進化フェイズが、Web3.0と総称されるものである。
 まずメタバースの最終進化形は、スマホと同じような機能性を持ち、安価で着け心地の良いARグラス。そこで重要なのは、3Dのバーチャル画像の解像度とレスポンス。そこで、実存感(いまそこに「いる」感じ)が実現され、ノンバーバル(非言語コミュニケーション)が表現出来れば、リアルと変わらないコミュニケーションが可能になると述べている。
 つぎにブロックチェーン。現在ある暗号技術、プログラムの仕組み、Webに接続された個々のPC間の通信技術、処理履歴の記録技術の組み合わせを使った、Web上で動くプログラム(アルゴリズム)のこと。この技術により、デジタルデータに、単一のサーバーやデータベースに依存することなく、WebにつながれたPCを相互利用し、改ざん不可能、複製を制限(コントロール)出来る、分散型ネットワークシステムで担保された、資産価値が生まれる。
 デジタルデータの資産価値の担保は革命的な出来事であり、現実社会のお金、金融サービス、所有権、株式会社の仕組みが、デジタルデータに置き換え可能になり、現実の社会活動の多くが、Web上のバーチャル空間に、再現可能となる。
 この動きの象徴的なものとして、Twitter創業者ジャック・ドーシーが、2021年3月9日、彼の最初のツイートを売りに出し、3億円の価格で落札された。これは、ブロックチェーンの仕組みを使った、鑑定書付の「世界で初めてのツイート」(デジタルデータ)である。
  Web3.0の最終形は、DAO(自立分散型組織)と呼ばれる、Web上のバーチャル空間での、株式会社、コミュニティの構築と実現である。ブロックチェーンの技術(DAOを実現しているプログラム)を使って、誰かがその組織のビジョンを掲げ、それに賛同する人が集まるコミュニティができ、その賛同者(組織貢献者)には独自トークン(暗号資産)が付与される。コミュニティの価値が高まると、独自トークンの価値も高まり、組織構成員には、インセンティブが付与される(スタートアップ企業のストックオプションのようなイメージ)。このため、構成員は、組織貢献がインセンティブにつながるため、自発的に組織やプロジェクトの成功のために働く。企業や投資家のみが利潤を独占する現在の組織から、組織構成員へインセンティブが変わる新しい組織体制である。
 Web3.0の構成要素である、メタバース、ブロックチェーン、AIが、すべて近い将来実現するかは確かではない。しかし、十数年前に、現在のWeb2.0の世界である、一日の多くの時間をスマホを覗き込みWebの世界に触れ、SNSで距離の制約から解放されたコミュニティを楽しみ、個人が世の中に情報発信する時代を、一般の人々は想像しただろうか。
 バーチャルネイティブな世代が生まれ、一日の多くの時間をバーチャル空間で過ごし、社会、経済活動が行なわれる可能性は、あながちないとは言えない。
 最後に本書の一文を記す。
「”未来に生きている人”だけに見える世界があり、その人が語る次世代のルールが、加速度的に私たちを変えていく」
 


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